生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2019.05.07

インタビュー

トップメーカーの社長が明かす「最強の人材活用法」【前編】/安川電機 小笠原浩社長

産業用ロボット、サーボモーター、インバーターの世界的な大手メーカー安川電機。小笠原浩社長自らが「人づくり推進担当」を務めるほど、人材の活用や育成に力を入れている。小笠原社長が先頭に立って実施する“働き方改革”の肝は「権利と義務、平等と公平、自由と責任のバランスが取れた評価制度にし、やりがいのある会社にすること」と言う。

成績上位者から希望の配属先へ

――まず人材採用についてお願いします。
 北九州市に本社がある“地の利”を生かせるため、採用で特別なことはしていません。毎年70人~80人の新入社員を採用していますが、九州以外の大学に進学したけれど地元で働きたいと考える優秀な人材も確保できています。新卒者の約半分は九州出身です。

――新入社員の社員教育についてお願いします。
 実施3年目に入ったのが理系出身者向けの「安川フレッシャーズ・テクニカルスクール」です。主な目的は1年間かけて、事業内容をよく知ってもらうこと、基礎知識を身に着けてもらうこと、そして配属先の決定です。座学とペーパーテストも実施し、成績上位者から順に希望の配属先に行ける仕組みとしました。

「入社がゴール」にならないように

「入社後の勉強が重要」と話す小笠原浩社長

――珍しい試みですね。
 まず、入社から3カ月間は通常の新入社員研修や工場実習をします。そのあとに「教養課程」としてわが社の事業に関する基礎知識を学んでもらいながら3カ月かけてさまざまな部署を回る短期インターンシップをします。ここでは、例えば電気基礎を座学でやるのですが、普通に考えれば電気系を専攻した人が有利ですよね。ところが出身学部と成績の相関関係は一切ありません。座学の内容は高校で習うよりも少し難しい程度であるため、インターンシップ期間中に一生懸命勉強した人ほど良い点数を取れます。その後は、専門課程として4カ月間の長期インターンシップに入ります。そして、長期インターンシップの終了時の成績に応じて、先ほど言ったように好きな配属先に行ける仕組みです。

――そのシステムを実施した理由は何でしょうか。
 1万~2万通のエントリーシートから選抜された数十人です。採用までの競争が厳しいだけに、入社がゴールになってしまう人が多いのが問題でした。しかし、座学をやって、テストを受けて、1年かけて順位を付けられるとなると、入社後もいい意味で緊張感を保てます。試験がしたいのではなく、会社のことをよく知ってもらうにはこの方法がいいと考えました。

やりがいのある会社目指す

――社長自らが「人づくり推進担当」をされていますが、人材の活用、育成の取り組みを教えてください。
 わが社の「働き方改革」の方針は、働きやすい会社を目指すのではなく、やりがいのある会社を目指すことです。仕事ができる環境や仕事のスタイルは各個人で違います。個人の事情に合わせた働き方ができる仕組みを整え、それを会社として公平に評価するのが重要です。例えば、女性社員の働き方にしても、バリバリ働ける時期もあれば、妊娠中などお客さまのところにサッと飛んで行くのが事実上不可能な時期もあります。家族の介護をしなければならない社員もいるでしょう。事情は人それぞれですから、それに合わせて働ける環境を作り、仕事を評価する必要があります。企業の中は、権利と義務、平等と公平、自由と責任のバランスが取れていなければなりません。

――非常に難しい取り組みです。個人の事情に合わせた働き方ができる仕組みを整えたうえで、いかに公平に評価するか。そのあたりの具体的な方策を後編では伺えればと思います。

――後編へ続く
(聞き手・編集長 八角秀)

小笠原浩(おがさわら・ひろし)
1979年九州工業大学情報工学科卒、安川電機製作所(現安川電機)入社。2006年取締役モーションコントロール副事業部長。インバータ事業部長、モーションコントロール事業部長などを経て13年取締役常務執行役員。15年代表取締役専務執行役員。16年3月から現職。人づくり推進担当、ICT戦略推進室長を兼務。愛媛県出身。1955年生まれの63歳。

「月刊生産財マーケティング5月号」でも再編集版をお読みいただけます。

関連記事:トップメーカーの社長が明かす「最強の人材活用法」【後編】/安川電機 小笠原浩社長(5月8日アップ予定)

TOP