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2022.07.05

[コラム] ロボット導入がもたらすもの

 昨年、米国のマネジメントサイエンス誌にある論文が掲載された。「The Robot Revolution: Managerial and Employment Consequences for Firms」(ジェイ・ディクソン、ブライアン・ホン、リン・ウーによる共著)、無理矢理日本語に訳せば「ロボット革命:企業における経営と雇用の帰結」といったところか。1990年代半ばから20年分ほどのカナダ統計局の公開データを使い、ロボットの導入と雇用の関係を分析した力作である。

 この論文の要点は、
・ロボットの導入により生産性が向上した(工程の再設計を求められることなどから)。
・各種先行研究ではロボット導入による雇用の減少が予測されていたが、総雇用数は増加した。ただし管理職の総数は減った。
・ロボット導入により管理職の職務が根本的に変化する。監督業務が不要になることなどから、決定権が弱まる。組織の慣行も変化する。生産技術の選択権は管理職から離れ、経営者・本社へと移行する。
・ロボット導入は、人件費の削減ではなく、製品やサービスの質の向上に関係する(生産時のばらつきの減少など)。
・スキルの二極化が進む。高技能者や低技能者の数は増えるが、中程度の技能者が減る。
・ロボットは雇用を変化させるため、その結果として組織構造が変化する。
・機会に適合できる企業はロボット投資から大きな利益を得て、潜在的な競争優位を得られる。ただし、「ロボットは(進化の途上にある)新しい技術である」と認識し適切な補完ができなければならない。
――などである。

 カナダと日本では文化的背景もかなり違うので研究結果を鵜呑みにはできない。また、経営系の理論は10年以上かけて異論反論を交えながら熟成するのが一般的なので、この論文の是非を断じるのもまだ早い。しかし、それらを差し引いてもこの論文の内容は日本にとって示唆に富んでいると言えるだろう。

 ロボット導入の影響は、費用対効果の理屈では測り切れない。単なる「人の代替労働力」ではなく、組織構造や組織文化まで変える可能性が高いからだ。この論文から得られる含意は「多種多様な変化を覚悟し、あるいは期待してロボットを導入すべし」なのだ。

 日本は長らくロボット先進国と言われてきた。確かに世界に先んじてロボットを大量に導入していたのは間違いない。ただし、市場の大半は自動車産業と電気・電子産業の特定工程に限定されていたのも事実である。しかし現在、人工知能などの情報処理技術や情報通信技術が急速に発達しロボットの可能性を大きく広げている。加えて、協働ロボットの出現が市場の裾野を一気に広げた。これからは幅広い産業分野、幅広い職種でロボット化が進むだろう。一体そこで何が起きるのか。企業や社会がどう変わるのか。少なくとも、単純な費用対効果の計算で出せるようなちゃちな変化量ではないはずだ。非常に楽しみである。

(ロボットダイジェスト編集長 八角秀)


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