開発拠点は一カ所に 現物を見て、触って、議論する/安川電機 小笠原浩社長
行くのが楽しみな職場に
――設立に当たり気を付けたポイントは。 環境の整備です。朝起きて『仕事に行きたくないな』と思う人が一人もいない職場、逆に朝起きたら『今日は何をしようかな』と行くのが楽しみになる職場にしたかったんです。壁のないぶち抜きのだだっ広いフロアですが、個別のワーキングスペースもたくさん作りましたし、ちょっとしたミーティングに使える椅子やテーブルが通路など至る所にあります。一時間に5回は空気も入れ替えています。大型の液晶モニターも百数十台あって、各拠点と常時つながっています。これが意外にいいんです。誰が席にいて、互いに何をやっているか見えるので安心感にも抑止力にもなります。
――YTCには試作用の各種工作機械まで設備されています。 顧客要求にスピーディーに対応できる開発体制を構築するには、基礎開発から試作までを垂直統合化する必要がありました。きれいな図面は引けても、その部品がどう作られるかを知らない技術者も多いので、特に若い技術者には「現場を見ろ」といつも言っています。生産を知らないと、少し設計を工夫すれば楽に加工できる、という勘所が分からないんですね。ですから開発者だけでなく生産技術者も一棟に集めて、その場で議論し、現物まで作れるようにしました。また、安定的に量産するには原価率や調達のしやすさも考える必要があります。そこでYTCには品質管理の技術者も集めました。ベンチマークや破壊検査、耐久性テストも一貫することで、量産を意識した開発ができるようになります。 ――一カ所に集まることには意味がある。 時代に逆行していると言われるかもしれませんが、開発者は一カ所に集めるべきです。確かに、情報通信技術が発達してリモートでもいろいろなことができるようになりました。しかし、現物を見て、自分の手で触って、議論をするのが開発の基本です。それ無しに物は作れません。製品開発はリモートワークには向かないと考えています。
(聞き手・ロボットダイジェスト編集長 八角秀)
小笠原浩(おがさわら・ひろし) 1979年九州工業大学情報工学科卒、安川電機製作所(現安川電機)入社。2006年取締役モーションコントロール副事業部長。インバータ事業部長、モーションコントロール事業部長などを経て13年取締役常務執行役員、15年代表取締役専務執行役員、16年から現職。愛媛県出身。1955年生まれの66歳。