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2021.04.05

コロナ禍で改革は加速、テレワークは単なる感染症対策ではない/安川電機 小笠原浩社長

安川電機は2017年から、独自のデジタル技術を活用した業務改革(デジタルトランスフォーメーション、DX)の取り組みを進めてきた。BCPを意識したものではなかったが、「結果的に新型コロナウイルス禍での業務継続にも役立った」と小笠原浩社長は言う。「ウィズコロナ」の一つの形としてテレワークが浸透するが、各社員が在宅で業務を進めるなら、デジタル技術の活用は欠かせない。そこでデジタル化の旗振り役を務めた小笠原社長に、うまくいく秘訣(ひけつ)や注意点を聞いた。

テレワークでも混乱なし

――今年に入って3大都市圏を含めた11都府県に2度目の緊急事態宣言が発令され、コロナ禍がなかなか収束しません。その影響は?
 現場レベルでのちょっとした困りごとはあるでしょうが、会社としてはコロナ禍でも正直あまり困っていません。私が社長に就任した16年から、毎月全従業員を対象にアンケートを実施していますが、特別困ったとの声はありません。このアンケートは記名式で、私も細かく目を通しますが、うわべのやり取りではなく、問題や批判がある時はみんなしっかり書き込んでくれます。このアンケートを見ても、コロナ禍前と比べあまり変化がない。また、テレワークでの仕事の生産性について質問しても「出社していた時と同等か、それ以上になった」との声が7割を占めました。

――テレワークを始めた時は混乱もあると思いますが、困らなかった理由は何でしょう?
 会社として在宅勤務を強制したのは、多くの企業と同様に昨年4月の緊急事態宣言の時でした。しかしそれ以前から、テレワークができる体制は準備していました。17年から働き方改革を進め、よく言われる「働きやすい会社」ではなく「働きがいのある会社を目指す」と決めました。多様な働き方を認め、各個人に合わせたスタイルで仕事をしてもらい、その成果を公平に評価する。それを実現する手段の一つがテレワークでした。しかし、セキュリティーが担保されたクラウド環境など、デジタル面のインフラなどは準備したものの、現場の意識まではすぐには変わらなかった。それがコロナ禍で一気に全社員に浸透しました。推進をしているメンバーは「緊急事態宣言が大きな後押しになった」と言っています。一度テレワークを経験して精神的な壁がなくなり、良さも悪さも分かったらならばそれを継続するか否かは仕事のスタイルの問題になりますので、昨年の緊急事態宣言以降もテレワークを使うかどうかは各部門・各個人に判断を任せています。

デジタル評価制度を導入

――インフラを整える以外に、必要だったことは?
 昨年後半から新たにデジタル評価制度を導入しています。よく言われる完全なジョブ型評価ではありませんが、各ポジションについてジョブディスクリプション(職務記述書)を明確にし、平等ではなく公平に評価するものです。テレワークでは「働きぶりが見えないから、上司が部下を評価しにくくて困る」という声をたまに聞きます。わが社では成果に基づいて適正に評価する取り組みを進めていますので、そんな事態にはあまりなっていません。また20年度を「YDX(安川DX)」元年と位置付け、経営管理の徹底した統合化とデジタル化を進めました。世界中の各拠点で使用していたデータ形式や独自コードなどを全て統一し、四半期決算が1週間、中間・年度末の連結決算でも2週間でまとめられるようになりました。受注や売り上げ、利益、経費、工場の生産状況などを常に把握できるため、今後は各従業員のデジタル評価につながる貢献度もより見えるようになっていきます。

――徹底していますね。デジタル化に抵抗感を示す人はいませんでしたか?
 現場は「こういう風にやってくれ」と伝えれば基本的に従ってくれます。問題になるのは、従来のやり方で成功体験を重ねた部長級以上の幹部です。推進する幹部と反対派の幹部でもめて、改革が中途半端な形になってしまう事例はよくあります。わが社では、私がICT戦略推進室長を兼ねています。他社で言う最高情報責任者(CIO)の役割です。社長なら反対派の幹部にも対処はできますが、それでも大変な苦労がありました。デジタル化は社長が旗振り役となってトップダウンで進めなければ、うまくいかないと思います。事業継続計画(BCP)はYDXの本来の目的ではなく、「コロナ禍でも問題なく事業を継続できたのはデジタル化が進んでいたからだ」とは言いませんが、結果的にコロナ対策としても大いに役に立ちました。

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