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2019.01.08

インタビュー

[新春対談]橋本康彦ロボ工会長×飯村幸生日工会会長【後編】

日本工作機械工業会の飯村幸生会長(左)と、日本ロボット工業会の橋本康彦会長(右)

2025年の日本の工場 ~人×工作機械×ロボット
人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)の出現により、工場の自動化(ファクトリーオートメーション、FA)技術が大きく進化している。FAが発展した近未来の工場とはどんなものか。日本の製造業はどう変わるのか。FA設備財の代表格である工作機械と産業用ロボット、それぞれの業界のトップである日本ロボット工業会の橋本康彦会長と日本工作機械工業会の飯村幸生会長に語ってもらった。

操作方法は協調領域

司会 対談の前半では、飯村会長から「協調領域と競争領域」の話がありました。ロボット業界では協調領域として取り組むべき課題はありますか?

橋本 これは川崎重工業としての取り組みですが、スイスのABBと当社は協働ロボットで操作方法や操作画面の表示の共通化を進めています。各社で操作方法が違うことはユーザーにとって不便でしかありません。テレビを見る際に、どこのメーカーのテレビでも、リモコン操作に困ることはないと思います。それと同じで、操作方法は標準化すべきと考えています。協調領域と競争領域の判断は難しいですが、「顧客にとって利益になるのはどちらか」を基準に考えればよいと思います。

近未来の工場と人材

「これからはさまざまなタイプの技術者が必要」と飯村会長

司会 2025年の近未来の日本の工場とはどういうものか、教えてください。

飯村 工場自体が自律性を持つ、これが近未来の工場ではないかと思います。スマートマシン(知的な機械)を前提にスマートマニュファクチャリング(知的な生産)を実現し、それらを接続して工場全体をスマートファクトリー(知的な工場)にする。それがさらには製造実行システム(MES)や基幹業務システム(ERP)とも連携する。当初の工程表からずれが生じても自動で補正し、最適な工程を組みなおす。またAIで言えば、データ駆動型のAIのためにいかにデータを蓄積するか。サービスマンのノウハウをAI化しようと思ったことがありますが、ユーザーから「駆動音が大きい」との異変の報告があっても、それが何デシベルなのか、周波数はどの程度なのかが定量的に分からないとデータは生かしにくい。そうした玉石混交の多様なデータをAIでうまく使いこなせるようになることも大切だと思います。

司会 実現するにはどうすれば?

飯村 データサイエンティストの育成などが必要でしょう。社内にメカの技術者は多いですが、これからはデータサイエンティストやAIの専門家、ロボットシステムのインテグレーターなど、さまざまなタイプの技術者が必要になると思います。従来の枠組みを超えて人材育成を考える時期に来ています。

ロボットの役割が広がる

「人の技能をロボットで再現して終わりではない」と橋本会長

司会 ロボットの普及も人材育成に影響を与えそうです。

橋本 今後徐々に、人の技能はロボットで再現できるようになると思います。しかし再現して終わりではありません。医療の世界では、手術用ロボットにより従来できなかった施術が可能になり、ロボットを使いこなす高い技能を持った医師からの声を受けて手術ロボットはさらに進化しています。こうした好循環が産業用ロボットでもできると考えています。“現場力”は日本の宝ですから、ロボットという道具を使ってさらに高度なものづくりができるよう、製造企業は現場の技能を磨く。一方、高い技能に応えられるよう、われわれロボットメーカーはロボットをさらに進化させる。これがあるべき姿だと思います。

司会 ロボット業界が考える近未来の工場とは?

橋本 産業用ロボットではすでに自己診断機能を持っている機種も多く、ネットワークを通して故障予測やメンテナンス時期の通知などの取り組みが始まっています。さらに今後は、センサーを内蔵したロボットハンドで他の設備を触るなどして計測すれば、1台で生産ライン全体の振動や温度などのデータを取得できます。各工程にかかっている時間を計測し、それらを均等にするラインバランスも可能です。必要に応じて無人搬送車などで移動させながら、ロボットを作業だけでなく、生産ライン全体を把握するためのセンサーとして使うこともできるのです。

飯村 ロボットがセンサーの役目をする、それは非常に面白いアイデアですね。振動などの根本原因が把握できて適切に対策が取れるなら、本来は工作機械の中に多数のセンサーを埋め込む必要はないと考えています。むしろセンサーは少ない方がいい。「あそこを確認したい」と思った時だけロボットに測ってもらう、それで十分なことは多い。ぜひ当工業会とも情報交換しながら実現していただければと思います。

橋本 加工した物や機械に触れるだけで多くのことが分かる。これは元々、工作機械のユーザーである加工技能の高い人が身に付けている能力です。われわれだけでできることは限られますので、連携しながら一層皆さまのお役に立てればと考えています。

――終わり
(司会=編集長八角秀、文・写真=ロボットダイジェスト編集部)



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飯村幸生(いいむら・ゆきお)
1980年同志社大学工学部機械工学科卒業、東芝機械入社。2000年射出成形機技術部長、04年微細転写事業部長、06年取締役、09年社長を経て、17年4月から会長。同年5月日本工作機械工業会会長。静岡県出身。1956年生まれの62歳。

橋本康彦(はしもと・やすひこ)
1981年東京大学工学部卒業、川崎重工業入社。2009年理事、13年執行役員などを経て、16年常務執行役員(現職)、18年取締役精密機械・ロボットカンパニープレジデント。18年5月日本ロボット工業会会長に就任。神戸市出身、1957年生まれの61歳。

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