生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2022.02.01

インタビュー

五感に頼る作業をAIに/エイアイキューブ 久保田由美恵 社長 インタビュー

安川電機の完全子会社のエイアイキューブ(東京都中央区)は、製造現場での人工知能(AI)技術の活用を提案する。久保田由美恵社長が目指すのは「ものづくりの現場で当たり前にAI技術が活用されている状態」の実現だ。「見る、聞く、触るといった人間の五感に頼るアナログな作業こそAIを適用すべき」という久保田社長に、AI技術の現状と課題、今後の見通しを聞いた。

できている自動化はそのままで

――製造業でもAI活用への期待があります。
 まず、現状すでに自動化できていることをわざわざAIに置き換えるのは、最もやってはいけないことです。計算式や論理式で解決できる課題にAIを使う必要は全くありません。しかし、製造現場できちんと自動化できていることは意外に少ないですよね。現場を見渡せば、見る、聞く、触るといった人間の五感に頼るアナログな判断が必要な作業は非常に多くて、しかもそのほとんどが自動化できていません。AIを適用すべき領域はそこです。ただし、100%の結果を求めるような工程にはAIを使わない方がいいでしょう。

――そもそもは安川電機のロボット事業部でコントローラーやソフトウエアの開発に携わっておられた。
 2019年に安川電機の完全子会社、エイアイキューブの社長に就任し、AIで何をすべきか手探りを続けてきました。ただ、社長就任時からの明確な目標は、「ものづくりの現場で当たり前にAI技術が活用されている状態」の実現です。使っている当人が使っている自覚がないくらい自然に、製造業とAIがなじんでいる状況を目指しています。

アリオムの概要。デジタル環境でのAIモデル生成により短期間での導入を実現する(エイアイキューブ提供)

――エイアイキューブの使命は。
 AI技術の開発そのものではなく、あくまでAIを事業で活用することです。領域はクラウド側ではなくエッジ(現場)側です。安川電機の製品へのAI機能の組み込み、パートナーである装置メーカーや最終顧客へのAI機能の導入、AI機能の生成ツールである「Alliom(アリオム)」という主に3事業があります。社員20人のうちエンジニアが15人を占めます。

――製造現場におけるAI活用の現状は。
 現場の大きな課題は、不具合などの学習データの不足です。そもそも不具合があまり発生しませんから、「だったら不具合データを作ってしまおう」と開発したのがアリオムです。学習用データの生成から工程の検証まで、全てをパソコン上で行えます。それを応用してエイアイキューブが発表した具体的なアプリケーションが、20年9月に発表したばら積みピッキング「AlliomPicking(ピッキング)」と21年9月の外観検査「AlliomVision(ビジョン)」の2つです。

ばら積みピッキング、外観検査に加え、故障検知・予測用途を開発中(エイアイキューブ提供)

――2つのアプリの具体的な導入状況は。
 現在は安川電機の製造現場がメインの導入先です。例えば外観検査工程ですが、FA(ファクトリーオートメーション=工場自動化)業界の不良品検査における絶対条件は「見逃し率ゼロ%」ですよね。FA業界では、検出精度を高めることよりも、とにかく見逃さないことが重要です。一方、「このくらいの傷は問題ないだろう」「これはちょっと厳しい」といった微妙な判断は人間のアナログな感覚に頼っている部分があります。そこで、AIを適用して外観検査を自動化する場合は、正解率を少し犠牲にしてでも怪しければとりあえず不具合品としてはじいておく、といった考え方が必要になります。

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