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2019.11.13

インタビュー

結果にコミット? ロボットのスリム化に貢献できたワケ【後編】/ナブテスコ

ロボットがなぜスムーズに動き、正確に作業をこなせるのか? ロボットが賢いのはもちろんだが、ロボットが正確に作業をこなせるように、ロボットの剛性がしっかりしていなければならない。ロボット本体とアーム、ロボットハンドのそれぞれが、決められた位置でぴたりと止まる。そのためには「高精度」「高剛性」「高信頼性」の3つの「高」を備えた減速機が必要なのだ。前編で減速機の重要性は理解できた。ではそもそも産業用ロボット向けの精密減速機「RVシリーズ」はどんな発展を遂げてきたのか。前編に続き、中・大型の産ロボ向け精密減速機で世界シェアの6割を占めるナブテスコの精機カンパニーで開発部長を務める森弘樹理事に、減速機の「肝」を聞いた。

減速機の歴史と進化

――産業用ロボット向けの精密減速機「RVシリーズ」はこれまでどんな発展を遂げてきたのでしょうか?

 RVシリーズは、対過負荷性能と剛性が優れた波型の歯車「エピトロコイド歯車」が特徴で、これが減速機の剛性を決めると言っても過言ではありません。開発当初のモデルでは、アームを支える軸受けを減速機とは別にロボット側で後付けしていました。そこで減速機側に軸受けを組み込み、軸受け内蔵タイプの減速機「A/Eシリーズ」を開発することで、ロボットの組み立て性が向上してよりスリムになりました。

――減速機の進化でロボットがスリムになった。

 また、それまでのロボットには、本体の表面にたくさんのケーブルがつながり、むき出しになっていました。ロボットが動くたびにケーブルが揺れて、どこかに引っ掛けてしまうかもしれない。そこでロボットの内部にケーブルを通すことになったのですが、そのためには減速機の中心を空洞にして、ケーブルを通せるようにしなければなりません。そこで生まれたのが中空タイプの減速機「Cシリーズ」です。ロボットのデザインはそれまでよりスッキリしてさらにスリムになりました。

ナブテスコ精機カンパニーの森弘樹理事

――スリムスリムと言われると人間のダイエットを連想します。ロボットもダイエットしてスリム化が必要ですか?

 ロボットがスリムになれば、自動車などの工場の生産ラインを短くできます。「高密度配置」と呼ばれるもので、同じ大きさや重さの物を持てる、よりスリムで軽量なロボットであれば、生産ラインや工場自体をより小さくコンパクトにまとめられます。前出のA/Eシリーズの出力密度を高め、40%軽量化したのが高出力密度タイプの減速機「Nシリーズ」です。

精密減速機「RVシリーズ」の内部はこうなっている

――今年12月に開催される「2019国際ロボット展(iREX2019)」ではどんな新製品が見られるのでしょう?

 「Z(ゼータ)シリーズ」を出展します。Nシリーズの出力密度、つまりコンパクト性を維持したまま、剛性をさらに20%高めたものです。同じロボットに装着した場合でも、より早く、より踏ん張れる減速機に仕上がりました。例えば摩擦圧接のような溶接の場合、ロボット自身が溶接点を押さえつけ、反力を受けるためにより踏ん張れる必要があります。ロボット全体の剛性を高める一つの要素として、減速機にも高剛性が求められます。溶接や接合の技術は日々進化して、多様化もしています。われわれも新たなニーズに即した製品の提供を通じて、その発展に貢献したいと考えています。

――あらためてお聞きしますがシェア6割を達成できた要因は何でしょう?

 1980年代に、あるロボットメーカーがロボットから発生する振動の解決法に悩んでいました。そこで当時、建設機械の油圧減速機を製造していたナブテスコの技術が注目されたわけです。2段減速型の減速機構のために、ロボットの固有振動数をずらす事ができ、結果的に振動問題を解決できました。ロボット向けでは後発だったわが社も、ロボットメーカーと一緒に進化することで、ニーズに応えられました。減速機の種類も数も増えましたが、製造もそれについていけた。単に技術力だけでなく、製造と品質のトータルで、ロボットメーカーに対応できたことがシェア拡大につながったと考えています。

さまざまな大きさのバリエーションがある

――今や「RV」が減速機の世界では一般用語になるほど認知されました。今後の課題や取り組みは?

 精密減速機「RVシリーズ」は、本来はわが社の独自ブランドで、知財管理も厳格にしています。今後もロボットメーカーのニーズにどう答えられるかだと考えています。減速機本体のボルト位置ひとつで、ロボットの大きさや、緩衝領域に影響します。ロボット自体も工場で自動組み立てされますが、ボルトの位置ひとつで自動組み立てができなくなることさえあります。なので減速機のボルト1本の位置をどこにするかにも悩みます。あとは材料の熱処理や部品の加工を進化させるにはどうすればいいかです。減速機の中空の穴を広げるなど、技術的に悩ましい。しかしそれに応えていかなければシェアに影響する。切削やプレスの加工技術など、社内の生産技術部門と協力して取り組む。トップシェアである以上今後もトップを走り続ける。追いつかれないよう、いかに技術力を発揮していくか。常に一歩、二歩先に技術を進化させていきます。
 
――生産能力を高めるための取り組みは?

 今年、津工場の敷地に工場建屋を建設し、後は生産設備を入れるだけです。稼働時期は未定ですが、今後拡大するお客さまの需要に応える準備は整いました。これで津工場の11万2000㎡の敷地は目いっぱいです。それとは別に、将来の増産に備え、浜松市に土地を取得しました。建屋など新工場の規模は未定です。足元の需要の増減に合わせ、対応したいと考えます。

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