• インタビュー
2019.11.14
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難しい! でも面白い! 安川電機が描く近未来の工場/小川昌寛 取締役 執行役員 ロボット事業部長

「自律分散型のソリューションをデータドリブンで実現したい」――。いきなりそう言われて理解できる人はあまり多くないだろう。しかし、安川電機の小川昌寛ロボット事業部長は大真面目にその構想を掲げ、実現に向けて着実に歩みを進めている。世界で最もリアルに産業用ロボットの未来を語れる人物の一人、小川氏の「脳内」をほんの少しのぞかせてもらった。

3つの「I」で始まる

――御社が近年かなり力を入れて取り組んでいるi³-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)とは何でしょうか?  アイキューブとは、Iで始まる3つの英単語を意味します。Integrated(インテグレーテッド、統合的)、Intelligent(インテリジェント、知能的)、そしてInnovative(イノベーティブ、革新的)なメカトロニクスというわけです。  産業の自動化革命を実現させるためにわが社が提案する新しいソリューションの概念ですね。

安川電機が提唱するi³-Mechatronicsのコンセプト

――もう少し分かりやすくお願いします。  生産現場ではさまざまなデジタルデータが発生していますよね。まず、その現場のデータをインテグレートする。要するに、“モノ”を作る工程に関わる全てのデータを一元化して同期させます。そうすることで現場の“コト”の状態がデータで表現できる、理解できるようになるのです。  ここで重要なのは、リアルタイムで収集しながら、同時にそのデータ群を活用することです。 ――すると?  そこから理解が深まり、分析が進むことからインテリジェンス、つまり知能が生まれます。そのインテリジェンスを活用すればイノベーション、革新が生まれるわけです。  顧客の目的はイノベーティブな環境を作ることですが、そのためにはまずデータを統合するところから始めなければならないわけです。統合しなければ知能的にはなりませんし、知能的にならなければ革新にはつながりません。 ――概念としては何となく分かる気もするのですが…。具体的にロボット事業に落とし込んで説明していただけますか。  これまでの産業用ロボットは、教えられた通りに動くものでした。事前に教えられていたことが彼らにとって唯一の情報だったからです。  しかし、今後はロボット自身や他のロボット、外部の機器などから多様な情報がリアルタイムに得られるようになります。すると、「自分が何をするか」「どうすればより良い仕事ができるか」といったことも判断できるようになるため、ものすごくパフォーマンスが上がります。若干難しく言うと「自律分散型のソリューションをデータドリブン(駆動)で実現したい」ということになりますね。

多品種少量生産にも向く

――要するに、ロボットができること、やれることが広がる?  個別の仕事の質も上がりますし、多品種少量生産など多様な仕事への適応力も格段に上がります。生産現場の課題への対応は顧客ごとのカスタマイズになりますが、中核となる考え方は、先ほど言った自律分散したデータドリブンの制御になるのは間違いありません。

「YRMコントローラにデータを集める」と話す小川昌寛取締役

――それを実現する製品が、先だって発表された「YRMコントローラ」(仮称)ですか。  YRMコントローラは、生産現場の全部のデータが集まる中核的なシステムの仮称です。わが社はロボット以外にもサーボモーターやインバーターなどの製品を持っているので、モーションコントロール、つまり物を動かすことやその制御に関することが非常に得意なんです。  ですから、わが社の強みであるモーションコントロールと、さまざまな機械や機器から得られる現場の各種データをYRMコントローラ上で同期させて、それを動作用のデータとしてロボットに戻してやることでパフォーマンスが飛躍的に高まるんですね。  また、これを繰り返すことでどんどんデータの密度は高まります。個々のロボットの「動き」と工場全体の「工程」が完全に同期された状態を作れるわけです。今まで説明したような領域まで行けたら、生産計画など、オフィスで作られるようないわゆる「計画系」の情報と生産現場も融合させたいです。 ――オフィスと工場と、その工場の中にいる自律的なロボットたちとが、きれいにつながって、リアルタイムに情報を与え合っているイメージですか。  そうです。しかも、仕事をすればするほど継続的に進化し続けられます。そこがポイントです。この辺りの方向性を、12月に東京ビッグサイトで開催される国際ロボット展で見せられると思います。 ――それは楽しみです!  さらに言うと、次世代通信規格「5G」が実装される時代になったら、ロボットがより広い範囲で結びつき、データが共有化されるので、より頑丈な設備、生産形態へ発展していくと思っています。  そのためにも、事前に全ての手順を定める“シーケンシャルな制御(連続制御)”からの脱却、つまり自律分散型の追求がカギになると考えています。

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