コロナ禍で改革は加速、テレワークは単なる感染症対策ではない/安川電機 小笠原浩社長
在庫は悪ではない
――工場での困りごとは? 中国への依存度が高かった部品が一部あり、調達先の見直しなどを検討しましたが、生産が止まるほどの問題はありませんでした。コロナ禍が始まる以前から、重要な部品はある程度多めに在庫する方針を掲げていたことも功を奏しました。19年度は業界全体として市況があまり芳しくありませんでしたが、部品が調達しやすい時期に需要の回復を見越し在庫を積み増しました。在庫は極力持たずに必要なタイミングで必要な量だけ用意するジャスト・イン・タイム(JIT)生産方式が普及し、経営上は「在庫は減らすべき」とよく言われます。また、在庫積み増しの決定をした際に「時代に逆行する」との声もありました。しかし、本当に「在庫は悪」でしょうか。私は、死蔵されずにきちんと使われているのであれば、決して悪いものではないと考えています。 ――在庫を減らす企業が増える中で「あえて増やした」ことが奏功したと 普段はJITでよくても、品不足になった時は調達力の強い企業が優先され、その他の企業は生産が止まってしまいます。これでは事業継続に支障が出て、供給責任を全うできません。われわれが製造するロボットやサーボモーター、インバーターは、お客さまの工場を動かすのに必要な機器です。われわれの出荷が止まれば、自動車や半導体などあらゆる産業に大きな影響が出ます。食品や、マスクなどの医療・衛生用品の生産にも必須で、それらを届ける物流にもロボットなどの自動化機器が使われています。米国ではコロナ禍で、産業によっては工場の操業禁止などの措置もとられたのですが、わが社はそうした対象になりませんでした。FA(ファクトリーオートメーション=工場自動化)はエッセンシャル、つまり欠くことのできないビジネスとして認識されているのです。
研究開発は集約
――テレワークに向かない業務はありますか 研究開発はYDXをもってしてもテレワーク化が難しいですね。働き方改革や業務の標準化と並行して、数年かけて検討し取り組んでいたことですが、この3月に本社敷地内に研究開発機能を集約した「安川テクノロジーセンタ(YTC)」を開設しました。次世代要素技術の研究から、新たな製品の開発、そして試作から量産準備まで幅広く担う拠点です。大学などと産学連携で研究をするオープンイノベーションの場でもあり、次世代通信規格(5G)の技術を使って産業用ロボットの遠隔操作技術などの開発を目指すローカル5G(九州初で3月に免許取得)の実験施設でもあります。分散していた研究開発拠点を一カ所に集約することで、連携強化だけではなくセキュリティー体制も万全に整えられます。テレワークとは逆行しますが、YTCに行きたくて仕方ない環境を作っていきたいと考えています。コロナ禍によりテレワークが浸透しなかった課題が解消され、さらには、YTCも完成したことで、社長に就任した当初から目指してきた形に一気に近付きました。今後も着々と計画を進め、持続的な成長につなげていきたいと考えています。
(聞き手・ロボットダイジェスト編集長 八角 秀)
小笠原浩(おがさわら・ひろし) 1979年九州工業大学情報工学科卒、安川電機製作所(現安川電機)入社。2006年取締役就任。インバータ事業部長、モーションコントロール事業部長などを経て13年取締役常務執行役員、15年代表取締役専務執行役員 技術開発本部長。16年3月から現職。愛媛県出身。1955年生まれの65歳。