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2022.07.08

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#59] 不ぞろいなサラダたち

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。

――今週もお疲れのようですね。3週間ぶりですか。ずっと無理を重ねてらっしゃったんでしょう? お疲れさまでした。
 いやいや、そうじゃないんだよマスター。例のセントレアの空港島で開催された展示会がようやく終わったんだけどさ。会期の3日間で4万2000人ぐらい来てくれたらしいんだ。ウチのブースも結構評判だったんだけど、それに味をしめたウチの部長が「来年10月に開催される展示会にも出よう!」って言い出して大変なんだよ。「やっぱり現場、製造現場だよ!」って、急にどこかで聞きかじった話をし始めてさぁ。オレたちにも年間の予定とか、それに基づいたルーティーンってものがあって「来年のこの時期はこれ、何月はこれ」って、だいたい決まってるわけ。新規であれこれ入れられると、前後の予定が狂って大変なんだよ。ただでさえ、新たな自動化に取り組む既存客が「まだか、まだか?」ってうるさいのにさぁ。今回の展示会で感触が良かったところも、新規で回らなきゃなんないのにさぁ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「ごろごろ夏野菜のラタトウィユ」かぁ。いいねぇ、それもらうわ。おっ! いつも感心するよマスター。料理の味付けもそうだけど、いつもうまそうに盛り付けてくれるねぇ。出された時に「ああぁぁ、うまそ~。早く食いて~」って、思うもんね。そうそう、盛り付けといえばさ、最近じゃ弁当屋さんとか、総菜屋さんとか、はたまたそば屋やうどん屋でも、ロボットが自動で調理したり、盛り付けたりってのが出始めたんだ。ロボットメーカーやSIerも、いろいろ考えているんだけど、なかなか「これだ!」ってものに、出会えていないんだよなぁ……。



 協働ロボットなるものが世に出てから、産業用ロボットを見る世間の目が変わった、と思ってるのは、オレたちロボットの関係者や、製造業で生産設備を担当する人間ぐらいだろう。

 いくら安全柵が要らなくなったとか、電源さえあればどこにでもと言ったところで、多くの人には全く関係ないし、介護用や接客用のロボットや、イヌやネコを模した愛玩用のロボットとの違いも分からないだろう。「ティーチング(教示)が楽になった」と言ったところで、多くの人は「はぁ、何それ?」としか答えられないに違いない。

 お掃除ロボットみたいに使い道が限定されて、充電すればボタン一つで仕事をこなすレベルになって初めて「これって便利だね」とようやく認められる。世の認識とは、そんなものなのだろう。

 だからこそ、展示会や実物の発表の機会をとらえて、より具体的な使い方を示すことで「こんな事に使えるのか!」「こんなに便利な物があるんだ」と感心し、納得してもらえる。

 名古屋市郊外の豊山町にある総菜メーカー・デリカ山城も、そんな会社の1つだった。オレたちSIerが、自動車や電機産業で積み重ねた工場の自動化の経験を、他産業にも広げようと狙った市場が、食品・医薬品・化粧品の「三品(さんぴん)産業」だった。そんな中で、出展した展示会で興味を持ってくれて「それじゃ!」と訪ねたのがデリカ山城だった。

 食品工場へのロボットシステムの導入で実績のあったロボットメーカーと共同で開発した、惣菜の盛り付けロボットを2台導入して、総菜でよく売れるサラダの盛り付けを自動化しようと考えたからだ。 

 水平多関節のスカラロボットを使い、アームの先にはモノをつかめるロボットハンドを採用しようと提案した。

 容器にレタスを投入し、千切りキャベツを盛り、ポテトサラダとミニトマトを盛る。ツナサラダの場合は、これにツナ入りの透明容器を載せ、フタをはめる。まずは1台で1人分の作業をロボットに置き換えようとした。

 システムの構築で苦労したのは、意外にもポテサラだった。モノをつかむハンド機構では、ポテサラがこびり付いて盛り付ける量が一定にならない。ある程度の誤差を許したとしても、数10g単位でばらつきが出ると、その後の搬送工程ではねられてしまう。運搬用のコンテナや、コンテナをまとめて載せるカゴ付き台車の積載重量を超えてしまうからだ。

 常に一定の重さをつかむ形状を探ろうと、数10パターンの形状で試してみた。いくら試しても、一定の重さにならない。オレたちも頭を抱えた。

 総菜サラダにとって、ポテサラは最も重要だ。店頭で容器を手にした時の、あのずっしりとした重量感は、ポテサラが担っている。ポテサラを抜きにして、あのずっしりとした重さは出せない。重量感をトマトに頼るのは限界がある。大きさや市況に左右されるからだ。

 半ば工業製品のようなポテサラは、製造コストも安定している。つぶしてしまうから、ジャガイモは不ぞろいでも、傷があってもいい。ポテサラ抜きに、総菜サラダは存在しないとまで言っていい重要なパーツ、いや食品なのだ。

 ポテサラ、ポテサラ、ポテサラ……。電車やクルマでの移動中も、家で風呂に入る時も飯を食う時も、ついでに言えばトイレで個室に入る時も、頭の中はポテサラでいっぱい。夢にまでポテサラが出てきた。夢に出て以来、コンビニでサンドイッチを買う時も、ポテサラ入りは何となく手を出さなかったほどだ。

 国道沿いの駐車場のあるチェーン店の焼き肉屋のランチメニューで、追加で頼んだデザートを食べようとしてハッとした。

 これは使えるかも……。

 手にしたのは「ディッシャー」と呼ばれるもの。ハンドルの先に、ふたつに割って重ねたピンポン玉のようなものが付いていて、ハンドルを握ると半球状のピンポン玉が回転して、アイスクリームを球状にすくえる金属製の道具だ。早速、調理器具屋をはしごして、大小のディッシャーをそろえた。

 ロボットがすくいやすいように、ポテサラそのものを冷やして温度を下げた。凍らせると、解凍後のポテトの食感が変わるため、凍り始める直前の状態にした。こうすることで、ディッシャーへのポテサラのこびりつきを少なくしたのだ。

 こうしてシステムは完成した。熟練のパートをも上回る、時間当たり200食をこなせるシステムに仕上がった。

 でもさ、完成したシステムがこなせる作業は、総菜サラダの中でもポテサラ入りの数種類だけなんだよね。若者が好むようなパスタが入ったサラダや、最近見直されつつある和食系のサラダ、シラスとかひじき煮 カイワレや水菜が入ったサラダは苦手なんだ。形が不ぞろいな食べ物を扱うのは難しいなぁと、つくづく実感したよ。

――たしかに、食材に限らず、自然界の物で形がそろった物なんてありませんからね。大手スーパーの店頭では、ニンジンやキュウリ、アスパラガスなど、なるべく形や大きさをそろえようとしてますが、なかなかうまくはいかないですからね。この店でお出しする料理の食材は、地方の農協や農業法人から安く取り寄せた、大手の店では並ばないような不ぞろいのものばかりです。形や大きさがそろった食材よりも、不ぞろいの食材の方が味はおいしい気がするのですが、気のせいでしょうかねぇ。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。


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