生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2022.06.10

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#55] えっ! 電話帳? 就職協定って何?(下)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。

――おや? 今夜もお疲れのようですね。大丈夫ですか?
 いや、そうじゃないんだよマスター。例のセントレアの空港島で開催される展示会が今月末から始まるんで、今日はウチの会社の役員に向けたプレゼンがあったんだけどさ。社長がふと「何か動きがぎこちないね」とか言い出してさぁ。何だか嫌な予感がしたんだ。そうしたら昨日まで「いいねぇ」と言ってた部長がコロリと態度を変えてさぁ。「実は私もずっと気にかかっていました」なんて言い始めてさ。「たにがわ君、子どもも見に来るんだからもうちょっと動きがなめらかな方がいいんじゃないかな」なんて言い出して、スタッフ一同大変なんだよ。あの部長め! ただでさえ老眼がしんどいのに大変だよぉ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「牡蛎(カキ)のガーリックバター焼き」かぁ、しゃれてんね。あっ、そうそう、先週食べられなかった冷たいペペロンチーノってある? それもちょうだい。今朝の天気予報でやってたけど、明日は「入梅」だって言うじゃない。ここのところ晴れの日が続いたから実感がないけど、いよいよ雨が続く日々が来るんだねぇ。オレは汗かきだから参っちゃうよなぁ。そうそう、汗かきのオレが参ったのは、学生時代の就職活動だったなぁ。ただでさえ、スーツなんて着慣れてないのに、真夏にスーツ着て、しかも当時は今みたいに新素材のクールなんとかなんて涼しいスーツはなかったから、大汗かいて大変だったよなぁ……………。



 オレが今のSIerに転職するかどうかで悩んでいたのも、初夏から入梅のころだったなぁ。今の部長に「一緒にやろう」「俺と一緒にやろう」「なぁ、やろうよ」って何度も聞かされて、ようやく「そこまで言うなら」と、真剣に考え始めたんだ。

 たしか、リーマン・ショックで機械が全く売れなくなって、ボーナスもスズメの涙ぐらいしか出なかった。しばらく歯を食いしばって頑張っていたら、ようやくそこから回復したころだったと思うよ。

 今年の夏のボーナスはどうかなって、同僚らと「ああでもない」「こうでもない」と噂してたころだったから。機械の世界は機械の世界でそれなりに楽しかったし、将来性もあった。実際に今、各社の業績を見ても、好調だからね。

 同級生や友達とか、学生時代の先輩とか、いろんな人にも相談した。けど、結局は自分で決めなきゃならん。「じゃあ専門家に話を聞くか」と、大学の先生達を訪ねたワケ。赤門のある学校とか京都の名門とか、高専や自治体の研究所とかさ。

 先生たちの感触はいい。というか、すっげーいいわけ。「この先は『伸びる』しかない。それしか考えられない」ってぐらいにさ。

 当時の新聞やテレビのニュースを見ててもさ。「少子高齢化」とか「自動化」なんて言葉は出てたけど。まぁニュースの決め台詞とまではいかなくて、経済や企業のニュースのキーワードみたいなもんで、あまり実感もなかった。

 でも先生たちは揺らぐことなく「少子高齢化」とか「自動化」と断言するわけ。今みたいに、さすがに「省人化」とまでは言わなかったけど。

 「今、40を過ぎたオレがその世界に転職したらどうなる?」って、聞いてみたんだ。そうしたら「たにがわさんみたいに、機械と製造現場を知ってる人はうってつけ」とまで言うのさ。「ロボットメーカーの人はロボットだけ、製造現場の人は現場の事しか知らない。だから両方を知ってる人は重宝されるよ」とまで。

 「そんなものか」と思って、礼を言って研究室を後にしたのさ。

 帰りに寄った居酒屋で、それぞれの学校や研究室をよくよく思い出してみると、研究室には必ず、日本人はもちろんだけど、韓国や台湾、中国の研究者が大勢いたわけ。

 先生たちの面会の前後には、必ずスーツを着た、韓国や中国人のビジネスマンが廊下のイスの、面会の順番待ちの列に必ずいた。先生との面談中に、電話が鳴るとかね。

 分かるさ、日本語でしゃべっていても、専門用語になると英語交じりになったり、「やぁ、〇☓さん」と、韓国や中国人の名前が出てくるから。

 ある時さ、先生に聞いてみたわけ。「先生の研究室は、韓国や中国の人は多いんですか?」って。

 そうしたら「多いのなんのって、彼らが一番熱心ですよ。下手したら日本人よりも熱心です。国を背負って国費留学で来てるから」って、さらりと言うんだよね。

 さすが、彼らは目ざといね。「次はこうなる」って、早くから目を付けていた。当時から、そうだったんだよ。

 その後、オレはSIerへの転職を決めて本業に精を出したから、大学の研究室にはあまり顔を出さなくなった。今から思うに、当時の日本で最先端の知識を得て、本国で起業し、日本で得た知識を引き続き更新、上書きしながら、製品化にこぎつけたんだろうね。

 この前ニュースサイトを見てたら、海外の通信社が中国のロボットメーカーの躍進ぶりを伝えていた。日本に研究開発センターを開設するとかね。

 オレはその日本語訳しか見ていないけど、何も知らない欧米の人は、ロボットと言えば中国、ロボットを使いこなしているのは中国、なんて思い込むかもしれないね。「2025年までに技術力で世界のトップレベルに追いつくよう目指す」なんて書いてあったから。

 日本人のオレとしちゃあ「冗談じゃない」と言うのが本音なんだけどさ。オレは海外ではあまり自動化のシステムを組んだ事がないけどさ。そのうち「わが社で自動化システムを組んでほしい」なんて、異国から頼まれたら、ウチの会社はどうするんだろう。

 就職氷河期世代として、新卒で就職するのにホント苦労した。その後、転職するのにも悩みに悩み抜いたけど。悩んで転職した分、この世界では努力したつもりだよ。外観を見たり、分解して調べたぐらいじゃ分からないぐらいのシステムを、絶対組んでやるからな。

――かつて日本も、和装にちょんまげのまま外国に行って、最新の技術を学んで日本に持ち帰り、それを発展させました。基礎を学び、それを応用して発展させて、製品にしたんですから、今想像しても立派なもんです。あるお客さんがこの前、店に来て言っていましたけど、かの国は人工衛星を作って飛ばせても、ボールペンのペン先の球を作れないと。ウソかホントかは分かりませんけど。長い目で見たら、果たしてそれでいいんですかねぇ。寿司のシャリが握れない店員が、機械が握ったシャリの上にネタを載せるだけの店って、お手軽ですけどいつも行きたい店じゃないですもんね。われわれバーテンダーだって、ただ量って注いだお酒をお出ししてるわけじゃない。バーテンダーにはバーテンダーの、矜持(きょうじ)とか、立ち振る舞いってものがあるんですよ。


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。


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