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2022.05.13

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#52] せっかくなら、便利で平和に使おうよ

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週もほんと疲れたわ。

――おや? お久しぶりですね。3週間ぶりですが、春の連休は楽しめましたか?
 いや、そうじゃないんだよマスター。ほら、来月末にセントレアの空港島で開催される、例の展示会に出展するって言ったよね。その準備に追われて、連休どころじゃなかったよ。出展の成功を祈って神頼み、1日だけ休んでお伊勢参りに出かけたら大渋滞でさ。名古屋市内を抜けるのに2時間、木曽川を渡るのに3時間、外宮にたどり着くのに4時間半もかかったよ。おかげ横丁も人がいっぱいでまっすぐ歩けないぐらいの人出だったよ。まぁ、参拝も済ませてウチの会社の出展も安泰、といけばいいけど……。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「アスパラとベーコンのキッシュタルト」かぁ、なかなかしゃれてるねぇ。アスパラって、夏の野菜でしょ? ここのところ急に暑くなって、今週は逆に雨模様で肌寒いぐらいだったけど、季節は着実に夏に向かってるんだねぇ。そうそう伊勢神宮ってさぁ、意外にハイテクなんだよね。「えし」とか「えじ」と呼ばれる少し時代がかった制服を来た衛士がいて、詰所も昔の交番みたいな雰囲気があるんだけど、参道や建物をよく見ると、素人のオレが見ても最新の監視や防犯のシステムが組み込んであるんだよね。「これ見よがし」じゃなく「さり気なく」ってのが、伊勢神宮の雰囲気にうまくマッチしてるんだなぁ。そうそう、この前行った展示会で見たんだけどさぁ。最近じゃロボットがどんどん進化してるから、ひと昔前にいた工場や会社内を巡回するガードマンとか警備員とか、もっと言えば番犬とかが要らなくなってきたんだ。これがどんどん発達して世の中に広まったら、こりゃあもうSFの世界だよなぁ……………。




 ひと昔前、いやふた昔前かな。と言っても、50歳を過ぎたオレのひと昔、ふた昔前だから40年ぐらい前の昭和の時代には、普通の民家よりも広い屋敷とか、町工場よりも少し大きな工場とかには、だいたい番犬というのがいて、その番犬がドーベルマンとかボクサーだったりすると、ロープじゃなくて鎖につながれていたりしたもんだ。

 目が合うとものすごい勢いで吠えられるのが子ども心にも悔しくてさ。でも、正面で向き合うと怖いから、前を通り過ぎるふりをして石を投げたり、棒を投げつけて、その家の人に見つかると「コラー!」って、これまたものすごい勢いで怒られたりした。

 1980年代後半や90年代になって世の中が洗練されてくると、民家には警備会社のセキュリティーシステムが導入されて、表札の下や玄関のドアに警備会社のシールが貼られ出した。工場の門には、それまでは会社の看板と鉄の観音開きの門扉しかなかったところに警備員の詰所ができて出入りする人を記録したり、出入りがない時は何台も並んだテレビ画面を見て、侵入者の有無を記録し始めるようになった。

 世の中が物騒になったのか、セキュリティーの意識が高まったのか、どちらが先か分からないけど、要するにそんなものは、ふた昔前はなかったんだ。

 門の詰所に立つ警備員というのは、昼も夜も定期的に工場内を巡回する。明るい昼間は詰所のテレビ画面を見れば、侵入者の有無が分かるけど、夜間は侵入者が見えないから、懐中電灯を手に、定期的に工場の敷地や建屋を巡回した。まあ、当時は監視カメラの性能自体が、そんなに良くなかったからだろうけど。

 人が眠ってる時間に働く訳だから、夜間勤務ならそれなりに手当てが付くはずだけど、募集すればすぐに定員が埋まる人気がある職業ではなく、タクシーの運転手と同じように「雇用の調整弁」のような意味合いもある。あとはその会社のOBとかね。

 敷地の巡回はもちろん、工場やオフィスの巡回でも、従業員が帰宅した深夜や始業時間前は冷暖房も切られているから、冬は寒く、夏はもちろん暑い、厳しい職場でもある。

 そこに最近は、警備会社がロボットを導入し始めた。車輪が付いたカメラ付きのサービスロボットみたいなもので、新型コロナが流行りだしてからは体温を検知するセンサーが付いたものなど、それなりに進化して、オフィスビルなんかで導入が始まった。エレベーターと通信して、高層ビルの巡回なんかもこなすらしい。

 さらにヒト型じゃなく、昔見たドーベルマンやボクサーのような、4足歩行の警備ロボットも登場した。最近の工場は敷地の隅々まで舗装されて、緑地帯を設けるような会社も増えたけど、工場を囲むフェンスやコンクリートの塀ぎりぎりのところは、荒れ地のように草が生えて整備していない工場も多い。資材置き場だったりすると、積まれた資材が邪魔で、車輪の付いたロボットの行く手を阻む場所もある。

 普段は人目に触れないような非常階段だって、広大な工場の敷地の中に山があったって、4足歩行のロボットなら、ちゃんと昇り降りして巡回できるんだ。
 もちろん、カメラやセンサーを搭載すれば、異常があればすぐに警備室に通報できる。ロボットが何か異常を感知した時だけ、冷暖房が完備された警備室にいる警備員が、その場所に駆けつければいい。

 またその4足歩行のロボットがしゃれててさぁ。バッテリーの残量が少なくなると、自動で充電スタンドに戻り、前後の足を折りたたんだ「伏せ」の状態で充電を始めるんだ。首をすくめたりしてさぁ。そんなかわいさも身に着けているんだよ。展示会での実演を見ていたら、思わず家に1台欲しくなったもん。

――たにがわさんの話を聞くとかわいく聞こえるんですが、最近のロシアとウクライナの情勢の映像と合わせて想像するとゾッとしますね。ドローンからの空撮映像が見られるって事は、それに兵器が積まれたらそのまま武器にもなるんでしょうから。ドーベルマンやボクサーのような4足歩行のロボットに追いかけられる自分を想像すると、ゾッとします。まあ、追いかけられるような事をしなきゃいいんですが。どんな技術も、使われ方次第で便利にもなり、恐ろしいものにも転用できてしまうのでしょうね。そう考えると、たにがわさんの仕事は、ロボットを平和に、便利に使う仕事なんですね。知らないうちに、世の中はどんどん便利になっていくんですねぇ。。


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。


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