生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2022.01.14

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#40] おせっかいでもティーチング

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――今夜もお疲れのようですが、大丈夫ですか?
 まぁねー。成人式も鏡開きも終わったからさぁ、先週も言ったけどスタートダッシュが大事だからフルスロットル! 全開だよ。オミクロンがどうとかって、テレビが騒いでるから「自粛!」とか「なんとか宣言!」なんて言い出す前に先鞭(べん)付けとかなきゃね。他社(よそ)が動き出す前に、さっさとツバだけでも付けときゃ、客先がリモートワークに戻っても話が進めやすくなるからね。「先手必勝!倒れるまで」が今年の目標さ。会社の若い衆には口が裂けても言えないけどね。「ブラック企業だ!」なんて騒がれちゃ、せっかく年初から先手打ったのが台無しになるからさ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「牡蛎(カキ)のアヒージョ」かぁ、いいねぇ。スタートダッシュにはガソリンがいる。ガソリン燃やすには栄養たっぷりじゃなきゃね。ニンニクたっぷりでお願いするわ。むかし機械商社で大阪勤務だったころ、立売堀(いたちぼり)近くの阿波座公園の南の、たしか「calendario」ってイタリアンの店で食べたアヒージョがうまくてね。たまに先輩に連れて行ってもらったよ。そう言えば思い出した。たしかその先輩に、初めてロボットのイロハを教えてもらったんだよなぁ。機械しか知らない俺に根気よく、知っている事は全部、あれこれ洗いざらい丁寧に教えてくれたんだよなぁ……………。



 兵庫県尼崎市は、JRで大阪の梅田から神戸方面に向かい、淀川水系の神崎川を渡った先にある中核市だ。

 兵庫県にありながら、電話の市外局番は大阪市と同じ「06」で、住んでいる地元の人間にしてみりゃ大阪の一部みたいな意識だ。経済的な結びつきも、実際の距離も、クルマや電車での移動も、神戸に出るより大阪に出た方がはるかに近い。

 市外局番が大阪市内と同じなのは、尼崎市の臨海部に阪神工業地帯があって、尼崎市内の工場と大阪市内の本社や支社との連絡がしやすくなるよう、尼崎市が当時の日本電信電話公社、今のNTTに工事費を肩代わりして認めさせたとの逸話も残る。今じゃ考えられないけど、当時の電話代は、市内と市外では大きな差があったんだ。

 JR神戸線の海側、つまり線路南側の国道2号との間に、立花部品加工所はある。オレが30代半ばのころかなぁ、イタリアンの店「calendario」に連れて行ってくれた先輩、今井さんと出向いた。

 立花部品は、アルミなどの金属やプラスチックの部品を加工する部品メーカーで、家電や電子機器、自動二輪、つまりバイクの部品加工を強みにしていた。ITバブルが弾けた後で、2003、04年ごろは家電部品がぐっと減って、業務の効率化と最適化に必死だった。そこで、機械を世話してたウチの機械商社に社長から「ロボット入れられへんかなぁ……」と、相談のようなボヤキのような電話があって、今井さんと一緒に駆けつけた。

 旋盤やマシニングセンタが並んでいて、熟練の作業員が複数台を担当していた。工場の周りは住宅が取り囲むように建っているから、24時間稼働は難しい。近所との話し合いで、午後10時までなら稼働してもいいとの取り決めもあった。だとすると、午後5時に終業した後の5時間が勝負になる。

 先輩の今井さんは現場を見るなりこう断じた。

 「小規模な工場の場合は、操作性をシンプルにするのが一番や。そうすりゃあ、新たに別の部品を受注してもシステムの変更が簡単やし、万が一トラブルがあっても回復が早い。たった5時間の作業やったら、導入効果は二の次に考えた方がええで」

 ロボットの事を全く知らないオレと立花部品の社長は、ただうなずくだけだった。

 今井さんは、工場に導入するロボットは2台と決めた。しかも小型ロボットと。一辺が数センチ程度の小物部品が多いから、小型ロボットで十分で、その分を視覚センサーやカメラへの投資に回すと決めた。そして、小型ロボット2台を使ったばら積みピッキングのシステムを組んだ。

 「部品をいちいちヒトが手でそろえるやり方は賢くないで。それじゃロボットを入れた意味がないわ」

 2台のロボットは1日最大で1000個のアルミ部品を扱う。これを達成するために、今井さんはロボットはもちろん、周辺機器で必要なもののほとんどを中古で賄った。その代わり、当時出たばかりの3次元(3D)カメラのシステムは最新の機種を選んで組み込んだ。

 ここからが今井さんのティーチング術。まずは3Dカメラで、いろんな角度から部品をスキャンし、部品の立体データを覚えさせていった。何度も繰り返すことで、対象部品の複雑な表面構造や、どこをつかんだらいいかを正確に認識させた。

 部品が重ならないように仮置きトレイに置いておけば、1台目のロボットが部品を自動で認識して決まった位置と姿勢に置き直し、2台目のロボットが旋盤のチャックに固定する。旋盤加工が終わったら、2台目のロボットが部品を取り出し、1台目のロボットが部品箱に正確に並べて作業は完了する。

 もし、新たな部品を受注しても1時間もあれば、ロボットをそのまま使い、新しい部品を機械に投入することができる。すでに20種類の部品に対応したプログラムを組み込んでいて、システムから瞬時に呼び出して作業させられる。ロボットハンドも簡単に交換できる。

 この時の今井さんからの教えをきっかけに、オレはこうしてSIerの仕事ができている。もちろんオレも努力したけどさ。きっかけは今井さん。ロボットや周辺機器、特に画像認識のカメラなんかの性能は、この時から比べて飛躍的に向上して良くなった。何より安くなったしね。今なら協働ロボットを使えば、もっと簡単にシステムを組めるはずだよ。

 この時は不良率ゼロに加え、ロボット導入から半年もせずに生産量は3割増加したんだ。今、最新の機器を導入したら、どれだけ生産性が上がったんだろう。こんど立花部品に行って、様子を見てこようかな。

――どんな業界でも、先輩からの教えは大事なんでしょうね。何気ない一言で、後輩がミスに気付くよう仕向けたりして。そんな一言の意味を、後輩は後になって気付くんでしょうね。誰にだって初めてはありますし、誰だって最初は新人、素人ですもんね。オミクロン株も何だか騒がしくなりましたね。この前、誰かが言ってましたよ。「オミクロン、検査しなけりゃタダの風邪」って。笑っちゃいけないんでしょうけどね。そろそろカンバンにしますか。


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

記事一覧:お嫌いですか、ロボットは?

関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#30] おおっ! 末は博士か大臣か? はたまた…
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#31 ] 時刻表の使い方(上)
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#31 ] 時刻表の使い方(下)
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#32] ギャングとの攻防
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#33] めざせビスポーク、ホンモノの領域へ
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#34 ] 坊主も走る12月、ひと息つきたい
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#35 ] パスタが何だ! ボロネーゼよりナポリタン
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#36 ] 地震、雷、火事、…停電?
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#37] デキる人ならどこからでも抜擢
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#38 ] 謹賀新年2022
関連記事:[お嫌いですか、ロボットは?#39] おせちもいいけど……華麗にね

TOP