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2022.01.07

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#39] おせちもいいけど……華麗にね

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気? あ・け・お・め! おめでとさん! いやあ、年明け早々も疲れたわ。

――おめでとうございます。今年も変わらず、よろしくお願いいたします。早々にお疲れのようですが、大丈夫ですか?
 まぁねー。年も改まったからさぁ、スタートダッシュが大事と思って客先を大急ぎで回ってきたんだ。去年も一昨年も、コロナの遠慮もあって、ダッシュとまではいかなかったからね。オミクロンがどうだと言うけど、収まるまで待ってたら商売上がったりだからね。今年は倒れるまでいくぞ! って感じかな。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「春の七草がゆ」かぁ、今日はもう7日なんだね。いいねぇ。あいさつ回りしても、古い会社だといまだに「まずはまぁ、お屠蘇(とそ)でも」なんて言われるし、昼時だと「近くでちょっと」って言われてあいさつついでに一杯やるからね。正月のおせちからの延長で、胃腸も相当疲れてるだろうなぁ。七草がゆって、室町時代から食べてたらしいね。御伽草子(おとぎぞうし)にも書かれてるって聞いたよ。むかしから日本人は、正月は酒を飲んでのんびりしてたんだなぁと思うとほのぼのとした気分になるわぁ。そうそう、おせちと言えばマスター知ってる? あれって、高級料亭のおせちでも、年中作り置きしてるんだって。おせちと言えば思い出すよ。新橋の料亭・金楼閣の案件を。あれも面白い案件だったなぁ……………。



 料亭と言えば、われわれ庶民には縁も接点もないし、そうそう出かけられる場所ではない。ましてや上場企業の重役でもなけりゃ、招くことも、招かれることもない。今じゃコンプライアンス(法令順守)だのなんだって、大企業の重役でさえ、会社の経費で気軽に使える料亭をいくつも知ってて贔屓(ひいき)にしているなんてスケール感はなくなった。

 バブル経済崩壊のころには「料亭イコール政治家の密談場所」みたいなイメージが焼き付いて、当の政治家でさえ料亭と名の付く場所を避けるようになって、ニュースからも「料亭」の言葉さえ消え、それを模した映画やドラマからも消えていった。

 今どきのテレビドラマで料亭のシーンを演出に使っても、ただでさえ子どもみたいなタレントを使った安っぽいドラマが、陳腐な演出で目も当てられなくなる。料亭での密談シーンが放映されでもしたら、口の悪いネット住……、いや目の肥えたネット住民から猛攻され、炎上に至るのは目に見えている。

 あまり知られていないけど、料亭自体も少しずつ業態を変化させてきたんだ。老舗の料亭はその絶大な知名度を生かし、夜の営業はもちろん、ランチメニューも充実させて女性向けの会合や昼食会を催したり、和風建築そのものの見学会を開いたり、和服の試着を兼ねたイベントを企画したりと、料理だけでなく、建物や立地、既存のイメージまでフルに生かした企業体へと生まれ変わろうとしている。

 新橋の料亭・金楼閣もその一つで、バブル景気の崩壊で経営が傾いて以来、創業家が経営権をファンドに売却。ファンドは大正期に創業した絶大な知名度を生かし、料理と建物、銀座や歌舞伎座に近い立地、かつての政治の局面でたびたび利用された「負の知名度」までも利用し、今やエンターテインメント企業へと脱皮しつつある。
 
 料理を生かしたビジネスの一つが「弁当ビジネス」なんだ。企業の接待や会合で使う、ちょっと値の張る弁当を請け負うのはもちろん、季節の料理やスイーツを宅配したりする。弁当ビジネスの一番の稼ぎ頭は、正月の「おせち」の重箱セットなのだ。

 正月ぐらい少し贅沢しても……。これが全ての出発点だ。「ちょっと高いけど、カズノコを奮発して…」「今年はカニでも…」「すき焼きの肉は松阪牛で…」と、冬のボーナスでいくらか暖かくなった懐具合が、庶民の「気」を大きくさせる。金楼閣のおせちは、毎年10万食を受注することはあまり知られていない。店舗だけでなく、老舗百貨店の食材売り場、いわゆるデパ地下の店舗でも受注し、販売もされているのだ。

 10万食のおせちを、秋口からの受注状況を見ながら作り始めてはとても間に合わない。冬の需要増を見据え、食材は高くなっていく。海産物はその代表格だ。ではどうするのか? 需要を見越して、早く作り始める。おせちに使う食材の調達は、実は春先から始まっている。

 実はここからが、俺たちSIerの仕事なんだ。おせちは、重厚感を醸し出す、和風建築の店舗の調理場で作られている訳ではない。ずばり、郊外の工場で年中フル生産されている。調理に使う、焼く、煮る、炒めるなど各種の専用機のほか、容器の上げ下ろしや機械へのセット、完成した料理の詰め合わせには、ロボットも使われている。食品工場といえば、白衣を着た社員やパート、アルバイトが総がかりで納期に間に合わせる、というのはひとむかし前の話。いまじゃ白衣を来た技術者が、モニター画面やデータとにらめっこしながら、工場内の調理器具やロボットの稼働に異常がないかを見守る立派な製造現場なのだ。

 工場で製造されたおせちは、隣接する冷凍倉庫で、独自の手法で冷凍保存されていく。繁忙期の合間にはお弁当や仕出し弁当もね。年末を迎えるころには、プラスチックのトレーごと、上質紙で出来た箱に移され、これまた上質の包装紙に包まれ、オリジナルの風呂敷にくるまれて、定温輸送で注文した家庭に宅配便で配達される。老舗料亭の気分を少しでも味わいたい客には、新橋の店舗や、百貨店のデパ地下での受け取りも可能だ。金楼閣にとっては、配達先が家庭だろうが店舗だろうが、どちらでも構わないんだからね。

――どんな業界でも「老舗」の看板だけじゃ食べていけないんでしょうね。今じゃクリスマスケーキだって、冷凍技術が発達して年中作っているなんて話も聞きますからね。むかしはスポンジの部分だけだったものが、冷凍技術の発達で、デコレーションまで完成させて冷凍しているそうです。そのうち、旬の料理や季節商品だって、年中食べられるようになるんでしょうねぇ。風情も何もあったもんじゃありませんけど。


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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