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2021.12.24

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#37] デキる人ならどこからでも抜擢

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――どこかで飲んだ後のようですね、赤ら顔ですが大丈夫ですか?

 まぁねー。クリスマスイブだからさぁ、ウチの若い衆らと飲んできたんだ。コロナのおかげで2年ぶりだから、2年分飲まなきゃねぇー。そう言えばマスター、先週は飛行機の話をしたと思うんだけど、今日はロケットの日なんだよ。NASAのアポロ8号が人を乗せて、初めて月の裏側を見た日なんだってさぁ。月は自転と公転が同じだから、裏側を見るのは大変なんだ。まぁ、今の話は全部、今朝聞いたラジオのニュース解説の受け売りなんだけどね。どこぞの金持ちが宇宙に行ったって騒いでるけど、宇宙が身近になり過ぎてロマンもへったくれもなくなったねぇ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「北海道産秋鮭の燻とば」かぁ、川を遡(そ)上したシャケの燻製なんだね。いいねぇ。シャケと聞いただけで、なんだか北海道に行きたくなったよ。夏はもちろんだけど、冬の北海道もいいんだよねぇ。俺は雨男だからさぁ、梅雨のない北海道に行っても雷雨に見舞われるし、冬に行ったら行ったで大雪に見舞われて飛行機が飛ばなかったりするんだよねぇ。また行きたいなぁ。そうそう、冬の天気で思い出したけど、部品メーカーが作る部品も、天気と同じでずっと一緒じゃないんだよ。定期、不定期で性能が上がったり、注文に応じて日に何度も作る部品を変えたり、納める先によって同じ部品でも仕様を変えたりね。思い出すよ、長野県茅野市の中島パーツ精工の案件を。あれこそ少量多品種の見本みたいなケースだったなぁ……………。



 中島パーツ精工は南信州の諏訪湖近くの電子部品メーカーだ。諏訪湖を抱える諏訪市の東隣、茅野市に会社はある。あまり知られていないけど、茅野市は観光都市の一方で工業も盛ん。工業生産額は長野県内の77市町村の内でベスト10のひとケタに入るぐらいなんだ。

 県内には時計やプリンターメーカーの工場があって、県下には精密部品を作る関連会社が結構あるんだよ。中島パーツもそんな会社の一つで、時計やプリンターだけじゃなく、クルマや精密機器向けの電子部品や電子機器、これらをまとめたユニットにまで手を伸ばし、業績も上げてきた。

 中島パーツ2代目の中島信一社長こそ、時計メーカーの下請けだった先代から会社を受け継ぎ、生産する部品の多角化を進め、家族を含めて10人だった会社を100人規模にまで育て上げた功労者でもある。今じゃ、近くの工業高校から毎年、新入社員を採用している。

 5年前だったっけなぁ、中島社長に頼まれて、生産ラインに5台の協働ロボットを導入したんだ。時の総理が「女性活躍社会」と掲げて、子育て中の主婦やパート社員を積極的に正社員に採用する動きが出てきた。そうなるとパートさんを確保しにくくなる、つまり「人手不足が来る」と予想し、人手に頼らない自動化を目指したんだね。

 かといって、全部を機械で自動化するのは投資の負担が大きい。そこで目を付けたのが、当時流行り始めた協働ロボットってワケ。安全柵はいらないし、人の代わりにそのまま現場に配置できる。そうした意味ではさすが、中島社長は先見の明があったね。

 中島パーツの生産ラインはロボットを柔軟に配置でき、短時間でセットアップできるから、生産ラインに自由に配置して生産工程を調整することができるし、高い品質が求められる特注製品の生産でも、業務の流れを急速に改善できた。しかも、5台のロボットへの投資は1年ちょっとで回収できたと言うから、使い方もうまかったんだろうね。

 部品や機器の生産は、どんどん多品種少量化が進んだ。多品種少量生産を進めると空き時間こそがムダだから、空き時間にはOEM(相手先ブランド製造)の部品の製造を割り振ってね。その分、会社の収益も上げていけたんだ。

 中島パーツがここまで収益を上げるには、紆余曲折もあったんだよ。中島パーツは先代の時代からずっと、特注の専用機を使ってきた。しかし、部品が組み込まれた最終製品の、エンドユーザーの購買行動、購買意識が変わるごとに、専用機の寿命がどんどん短くなるのが分かったんだ。

 汎用機を組み合わせた自動化も考えはしたものの、専用機との差を埋めるのは人手に頼らざるを得ない。人手に頼りさえすれば、ある程度の高利益を見込めて、投資利益率も高いことが分かったんだけど、投資回収期間が長くなる。回収期間が終わるころには、自社で生産する部品や機器は時代遅れで、最新の部品や機器の生産に対応できなくなる。

 そこで中島社長は、現存の設備を維持しながら、最新の部品や機器の生産に対応する方法、しかも人手がかからない方法を探し始めた。

 そこで、回り回って俺に声がかかり、茅野まで出かけたさ。大雨の中をね。作業を見学すると、パート社員の反復的な手作業が必要だった。休憩時間もあるけど、疲れてくれば不良品の数が増えてくる。事故とまではいかないけど、ケガなんかの労働問題も起こしかねないし、何より製造する部品の品質に悪影響を及ぼす可能性が高まってしまう。

 今の中島パーツの生産ラインでは、レーザーマーキングや基板の切断、ユニットに部品を差し込む工程なんかを協働ロボットにさせている。レーザーマーキングが終わると視覚認識機能で製造、型式の各番号と商標が正しく刻まれているか検査するんだ。

 ユニットに部品を差し込む工程はまさに、人間の動作を完全にマネして、ユニットに部品を挿入していく。挿入後のユニットのトレーが満杯になると、ロボットは新しいトレーに取り替えて作業を続ける。

 中島パーツはセットアップが簡単で、短時間で配置できて、安全なロボットの特性を生かし、業務の流れを改善した。生産する部品や機器が変わっても、設備のほとんどを新しい部品や機器の生産に使えるんで、設備投資にかけるコストの負担も下げられたんだ。パート社員が作業中にケガをする可能性も大幅に下がったしね。ロボット導入のおかげで、工場内での人員配置も柔軟になって、パートの中から管理職に抜てきすることもできたんだよ。あれはコロナ騒ぎの前で、1年半ほど経つから、パート出身の管理職も立派に育ったんじゃないかなぁ。

――これまで使ったことがない、全く新しいものを導入するってのはなかなか勇気がいりますよね。ウチの店でも料理で部材をかき混ぜる「ハンドブレンダー」、メーカーによっては「キッチンドローン」なんて呼び方をしますけど、これを入れたのはコロナ禍が収まって、店を再開できた10月からですからね。休業中に悩みに悩み、家電量販店に何度足を運んで試したことか。使い始めたら、もうホイッパーやスライサーには戻れませんからねぇ。そろそろカンバンにします。ところで、たにがわさんの会社は、年内はいつまで営業ですか? 今年もお世話になりました。良い年の瀬を。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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