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2021.11.19

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#32] ギャングとの攻防

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――おやおや、今夜はマフラーまで? 外は冷えてますかね。
 さすがに朝晩は冷えてきたね。来週は暦の上では小雪だから、そろそろ雪が舞ってもおかしくないからね。小雪と言えば、そろそろお歳暮の準備もしなきゃね。そうそう、今日は世界トイレの日なんだってね、国連の総会で決めたらしいんだけど、記念日よりもコロナを何とかしてほしいよなぁ、ったく。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「野沢菜のごま油炒め」かぁ。もう野沢菜の季節なんだね。この辺りで出回るのは信州産かな。そもそも、野沢菜は信州でしか採れなかったものらしいね。最近は、日本の野菜も輸出されるようになって、輸出先でも好評らしいよ。輸出と言えば、自動車の輸出入の現場でも、いずれロボットが導入されるようになるんだよなぁ……………。



 学生時代にはホント、いろんなバイトをした。その時のバイト選びには2つ決め手があって、カネになるか、楽しんでやれるか。きれいな女の子がいるってのもあったかな。まあ、時間をカネに変えてるんだから、カネになるってのが最も大切なんだけど、楽しんでやれるかってのも、案外重要なんだよね。普段では行けないような場所に行けるとか、貴重な体験ができるってのも、まだ世の中を知らない学生には大事だったりする。遊覧船のガイドの仕事も、そんなバイトの一つだったのかもしれない。

 夏に愛知の豊橋港で、遊覧船のガイドのバイトをしたんだ。今もまだあるのかなぁ。遊覧船「かつみ丸」で、1日4便のガイドで1万円。交通費は実費で昼は弁当も出してくれた。豊川で下宿してた友達の部屋に泊めてもらって交通費を浮かしてね。浮かした分は、夜の飲み代で消えても、日当はまるまる貯まった。

 横浜や神戸みたいに、決して大規模で華やかな港じゃないけど、コンテナふ頭や豊橋造船所なんかを海から見学してね。深海調査船とか気象観測船、自衛隊の護衛艦なんかが入港すると、急いで資料を探してメモして、ガイドのネタにした。 

 今は田原市になったけど、当時の田原町にあった自動車メーカーの工場に隣接した自動車専用バースや、輸入車の輸入バースなんてのもあってね。自動車運搬船なんて真四角で独特の形だし、双眼鏡をのぞき込んだり写真を撮ったりして、客は喜んでくれたよ。

 自動車って、どうやって船に積み込み、どうやって船から降ろすか、マスターは知ってる? 専門業者のスタッフが運転して船に積み込み、同じように専門業者のスタッフが、運転して船から降ろすんだ。

 話は少しそれるけど、港で働く港湾労働の世界って、作業内容によって細分化されているんだ。綱取りと言って、船を岸壁に固定するロープ引き寄せる専門の人や、荷物を積み降ろしする人、クレーンを操作する人とか、とにかく専門家がいっぱいいる。

 ギャングって言葉も、本来は船内で荷役作業をする労働者の単位のことなんだ。そのギャングが陸から船に渡る橋を日本でもギャングウェイって呼ぶぐらい、海運や港湾労働の言葉は世界共通なんだよ。

 自動車運搬船の場合は、船からスロープのような板を降ろすと、マイクロバスに乗ったギャングたちが船に乗り込む。船の中は、ショッピングモールの自走式の立体駐車場のようになっていて、ベルトで床に固定された自動車が並んでいる。ギャングたちは自動車に乗り込み、運転して立体駐車場から車を出すように船から一台一台降ろしていくんだ。

 降ろしたら、決められた場所に駐車して、マイクロバスに乗り換えて船内に戻る。この繰り返しで船から降ろす。船に積み込む場合は、この逆の作業を繰り返して積み込むんだ。

 自動車運搬船で自動車を積み降ろしするギャングは、運転と駐車のプロなんだ。要するに、船の運航で無駄な時間と言えば、荷物の積み下ろしをするための港の停泊時間なんだ。タイヤが滑りやすい金属製の床面の上を、車間距離を詰めて目一杯飛ばす。

 船にたくさん積むには、自動車同士を目一杯詰めて停める。サイドミラーを閉じて、ミラー同士が当たらない、多少船が揺れてもぶつからない、絶妙な間隔で止めるんだ。

 でね、話はここからなんだけど、この作業をロボットに任せられないかって研究が、つい最近発表されたんだ。専用の搬送ロボットが自動車を持ち上げて、自動で積み降ろしをしてくれる。積み降ろし作業で走行距離が増えることもないし、1速で回転数を上げて走らなくていいからエンジンやミッションも傷まない。

 さらに、実はここからが重要なんだけど、港の、もっと言えば船を運航する船会社と港湾労働をまとめる港湾運送会社との労働契約とか、労働慣行の影響を受けない。

 労働慣行って、大昔から続いてきたし、港によって違うし、守るのは大変なんだ。港によって朝は日の出から、夜は日没まで。それ以外の時間は割増料金がかかるとかね。人の手で積み降ろし作業をしていた時代からの慣行なんで、今じゃ時代遅れのものも結構残っているんだよ。

 ロボットに任せられれば、1年365日、24時間の積み降ろしだって可能になるんだ。これは画期的な事なんだよ。もちろん、港湾運送会社もいろいろ考えているし、作業の自動化にも取り組んでいるとは思うけどね。

――どこの世界にも、独特な契約や慣行はありますからね。お酒の世界だって、開業当初はどこも、酒の卸会社とは毎日の現金払いでしか取引を始めてもらえませんし。まして値段だって卸会社の言い値。酒によっては近くの量販店の方が安い物もありますからね。取引が長くなれば長くなるほど、その条件も変わっていき、便宜も図ってくれるようになりますから

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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