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2021.11.05

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#31 ] 時刻表の使い方(上)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――お疲れさまでした。この前の展示会の疲れはとれましたか? 会場からの撤収や片付け、来場者へのお礼やなんかでいろいろあるでしょうに。
 まぁね、展示会はキッカケ作りで終わったこれからが商売だからね。2年ぶりの本格的な展示会だったから来場者の意欲って言うのか、熱量も高くてねぇ。「いつ発売するの?」「納期はいつ?」なんて殺気立った人もいてさぁ。すぐに売れるようなら「参考出展」なんて表示も付けず、とっくに売ってるって。「展示中の実機でいいから」なんて畳み込まれるとうれしくなるけど、まずは交換した名刺の振り分けだけでも大変だよ。先週話した新人のマミちゃんが、毎日パソコン画面とにらめっこしてるよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。えっと、今夜のおすすめは「大根とじゃこのさっぱりサラダ」か。そっか、ダイコンって今が旬なのかぁ。そういえば最近は少なくなったけど、コンビニでもおでんが出てるもんね。そうそう、おでんで思い出したけど、最近じゃ居酒屋やレストランでもサブレ? じゃない、サブサ……そうそうサブスクとかいう定額サービスがあるみたいだね。一定額を払うと何回でも、おかずやつまみを持ち帰れるなんていう。ウチの業界でもさ、そんなものが出始めたんだよ。昔は納めた先から「なんだこんなもん!」「使えん、持って帰れ!」なんて怒鳴られたもんだよなぁ……………。



 あれはいつだっけなぁ。俺が機械商社に入社して、初めての出張だった。先輩が売った機械の据え付けに、立ち合いとして行かされたんだ。先輩は別の商用が長引いて行けなくなって。初めての出張で、しかも一人。関東圏どころか東京都内、23区内の地理だってまだ頭に入っていないおのぼりさんが、顧客名簿の住所を見て出かけたんだ。

 マスターなら知ってるだろうけど、俺が新入りだった四半世紀前なんかインターネットもろくにない時代でさ。今なら、住所が分かればネットの地図で正確な場所と最寄り駅、列車の時刻表、約束の時間から逆算した、自宅を出発する時間まで瞬時に分かる。

 当時は住所から地図、もちろん地図帳で場所を特定し、そこから近くを通る線路を探し、最寄り駅を見つけ、そこから会社や自宅までのルートを算定したんだ。

 ここからが難関で、出発駅と到着駅までの距離で決まる運賃と、特急料金と指定席の料金を時刻表で調べ、さらに出張の期間が「繁忙期」や「閑散期」にかかるかどうかを調べる。指定席特急料金が期によって変わるからね。特急を乗り継ぐと、片方の特急料金が安くなるなどの決まり事をクリアしてようやく「交通費」を算定できる。

 これが決まらないと、経理から出張経費の前借りができなかったんだ。若いから普段、まとまった金なんて持ってないから経理からの前借りは必須だったんだ。

 約束の時間に間に合う列車がなければ、最寄り駅近くで前泊する事になる。これがまた大変で、地図で駅近くのホテルを探し、電話帳や電話番号案内「104」で番号を調べて、一泊いくらかを聞く。2、3件聞いて、出張規定に収まる料金のところに改めて電話で予約する。

 逆に、規定額が決まっているから、安いホテルに泊まれば規定額との差額は「お小遣い」。この辺りは牧歌的だったよなぁ。チケット屋で新幹線や特急の回数券を買えば、正規運賃との差額も「お小遣い」に代わり、昼飯代や宿泊地での一杯に充てられる。

 そこまで準備して、晴れて出かけたさ。栃木県鹿沼市の「めぐみエンジニアリング」に。その時は浅草から東武日光線の新鹿沼駅に行って前泊までしたけど、今なら東北新幹線の宇都宮駅から行った方が早くて前泊も必要ないんだけどね。

 めぐみエンジニアリングは当時の新型NC(数値制御)旋盤を買ってくれた。俺が朝8時前に現地に着いたら、メーカーのエンジニアと系列の運送会社の社員が、トレーラーの荷台からクレーンで旋盤を吊り上げている最中だった。工場前の道路には、既に役目を終えた古い旋盤が置いてあった。その旋盤は、当時急速に工業化を進めていた中国に行くことが決まってた。

 狭い道路沿いに貸工場が軒を連ねた場所で、トレーラーが工場の入口に付けたら道が塞がっちゃうんだけど、それもまあお互い様で、近くの工場の社員も、タバコを吹かしながら作業を見てた。会社にとっては周りの会社に胸を張れる、ハレの日と言っていいよね。

 まあ、立ち合いと言ったって、現地で商社の社員がやることなんて何もない。作業が滞りなく進んで、その間社長のご機嫌でも取ってればいいのさ。俺も先輩から教わった通り、社長にあいさつして世間話をしてた。

 昼前には据え付けも終わり、エンジニアの簡単な操作説明が始まっていた。説明を聞くのは、実際に機械を操作する若い社員に任せ、俺とメーカーの担当係長とで昼飯を食べに行くことにした。社長は「行かない」って言うんで、専務も一緒にね。午後からも、まだあれこれ作業や手続きがあるんでさすがに酒こそ飲まなかったけど。

 昼飯を終えて、通された応接で社長と話すと、なんだか浮かないというか、複雑な表情をしてるんだよね。「社長、どうかしました?」「機械に何かあったんですか?」と聞いても、「いや、そうじゃないんだ」「そんな事はないけど…」なんて煮え切らない。

 メーカーの担当係長も「余程の事でなければ、この場ですぐ対応しますよ。何なりとおっしゃって下さい」ってさ。

 そしたら社長、えらいこと言い出すんだ。
  
 「たにがわさん、悪いけど持って帰ってくれ」って。

――あらま、えらい話の展開ですね。たしかに昔は、オフィスに電話帳ほどの大きさの時刻表が必ず置いてありましたね。ダイヤ改正のたびに、新しいのに買い直して。当時の新聞記者のお客さんは、カメラとポケットサイズの時刻表を、必ずカバンに入れて持ち歩いていました。今じゃ、スーツのポケットに入れられるスマホで、何でもできちゃいますからね。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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