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2021.08.06

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#27]海外からの「お取り寄せ」(中)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ―――

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたよ。

――今夜も汗だくですね。外はまだ暑いですか?
 暑いのなんのって。オレ汗かきだからさぁ、参っちゃうよ。あまりにも暑いんで、今日なんか営業先の「なんにも専務」の部屋に入り浸って、昼からずっとテレビの五輪中継を観てたよ。近代五種って面白いね、あんな競技生まれて初めて見たよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「しらすと大葉のトルティーヤピザ」か。へぇー、和食だかイタリアンなのかよく分からん、いや国際色豊かだね。しらすは取り寄せかな? そうそう、思い出した。三島ランチサービスの案件だったね。なぜか俺に、お鉢が回って来たんだよなぁ……………。



 ロボットの業界は今、食品や医薬品の業界に猛プッシュをかけている。自動車とか、重い軽いの電機業界、最近話題の半導体とか、いわゆる部品を扱い、加工を担う業界には、だいたい産業用ロボットが導入された。業界や会社の規模もあるから全部とは言わないけど、大手を中心に行き渡ったといっていい。

 そもそもそういう業界や会社は、新しい事にチャレンジしたがるし、カイゼンの意識も高いから、社長が黙っててもだれかが「ハイ!」と手を挙げる。まぁモノ好きが多いよね。

 食品業界は違った。先週も話したけど、食材の洗浄や運搬、切断、その後の調理用など、それぞれを得意とする専用機メーカーがたくさんあって、そこが自動化も担ってきた。事業規模もさまざまで、随分前に立ち話した会社なんて、鶏肉の肉と骨を分離する機械で「世界シェア100%」なんだ。まあ、外国は骨付き肉を好んで食べるから、どれほどの需要があるのかはよく分からないけどさ。

 日本の食品業界は「潔癖症なんじゃない?」と疑うほど衛生管理が徹底しているから、国内市場はガラパゴス状態。外国から輸入した装置や機械じゃ、日本の会社や担当者は納得しない。だから大小さまざまな専用機メーカーがあって、輸出と言っても日本企業の海外工場向けがほとんどなんだ。

 長年にわたり、必要に迫られて生まれた制約やしばり、法規制や行政の通達なんかも理解して、食品メーカーや給食会社と「あうん」の呼吸で話ができる。それこそが、専用機メーカーの強みなんだ。

 でもね、苦手な事もあるんだよね。あうんの呼吸では生まれない、斬新なアイデアの蓄積が。ロボットメーカーやSIerたちはさすが、だてに「世界一の日用品メーカー」「世界の〇☓」「ロケットエンジンの△〇」を経験していない。発想力や経験に裏打ちされた豊富な提案は、専用機メーカーとは異次元のところからわき出る。

 三島瑞穂社長の悩みは小さなトマト、いわゆるプチトマトだった。給食や弁当のおかずのメインは揚げ物や焼き物。その横に煮物が並ぶと、容器の中はとかく茶色で埋まりがち。揚げ物にキャベツやレタス、ホウレン草を添えたとしても2色で、できればもう1色加えたい。そこにプチトマトを足せば、弁当全体に、彩(いろど)りを添えられる。

 瑞穂社長と妻の洋子さんは、起業後の忙しさにかまけ、たいした趣味もなかった。事務所の玄関脇や受付に花を飾るのは好きで、それが転じて自宅マンションのベランダで始めた家庭菜園が唯一の趣味だった。

 ゴーヤやキュウリ、ナスや枝豆などがベランダ菜園の定番だけど、一番難しいとされるのがトマトなんだ。種をまき、芽が出たら間引き、あとは水やりさえ欠かさなければ大体の野菜は育つ。トマトだけは、水やりの加減が難しい。甘酸っぱく実らせるのが難しいのがトマトなんだ。瑞穂社長と洋子さんは毎年、ベランダで育てたトマトの出来に一喜一憂していた。

 弁当1つの値段はワンコイン以下、できれば400円以下に抑えなければ、コンビニの弁当に負ける。そのために、原材料を含めたコストは極限まで削る。しかし、三島ランチサービスの弁当は、プチトマトだけは例外扱いにした。弁当のおかずで、プチトマトだけは、彩りの他に、デザートの意味も持たせたからだ。

 瑞穂社長は、プチトマトの熟れ具合と味にこだわった。まだ硬いトマトでは、かんだ時に実が飛び散り服を汚す。そもそも未熟だから、おいしくない。熟したプチトマトは甘酸っぱくておいしい。口の中で実が歯に触れた途端に薄皮が弾け、甘い果汁が口いっぱいに広がる。そう、完熟したプチトマトの薄い皮こそ、扱いが難しいのだ。

 完熟プチトマトを弁当に詰めるにはどうしたらいいか――? 実は工場の自動化を進めるうえで克服しなければならない課題はこの1点。

 「完熟プチトマトを扱えなければ、工場の自動化はない」
 瑞穂社長と妻の洋子さんはこう考えている。

――自動化のネックがプチトマトだとは意外ですね。先を知りたいんですが、もう9時を回りました。続きは来週にでも聞かせて下さい。また新しいつまみを、考えておきます。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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