生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.07.16

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#26]青天井ってわけにはね(下)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? ドアの張り紙がなくなったね。すっきりしていいね。いやあ、今週も疲れたよ。

――シャツが汗まみれですね。この時間でも外はまだ暑いですか?
 梅雨明け早々でこれだもんね。ここんところ急に暑くなって、この時間でも外はまだ30度近くあるんじゃないかなぁ。オレ、汗かきだから参っちゃうよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「森バターのやっこ」? 森のバターって、アボカドの事か。へぇー。アボカドに薬味をのっけてしょうゆをかけるって、世界中どこを探しても日本だけだろうね。そうそう、話は「トリノスビバレッジ」の件だったね。資材運搬用の仮設エレベーターで思いついたって話だったよなぁ……………。



 飲料メーカー「トリノスビバレッジ」の新工場で、ペットボトル入りジュースの製造工程の自動化を任されることになった。

 工場の建屋は5階建ての無窓工場で、配送センター機能を備えた1階こそ2階相当分の天井高があったものの、2階以上は都会のオフィスビルぐらいしか高さがなかった。

 最近の工場は「環境にやさしい」とか「二酸化炭素の排出量を抑えた」とかを売り文句にして、空調費や照明の電気代を抑えるために、無窓工場で天井を低くするケースが増えたらしい。特に食品を扱う工場では、異物の混入や衛生面での管理、温度管理をしやすくするためにも、一部屋を小さくする。少ない照明でも隅々まで光が届き、死角をなくすような効果もあるらしい。

 そうされると、SIerとしては自動化で使うロボットに制約がかかる。原材料が入ったオイル缶や一斗缶を持ち上げたり、傾けたりするロボットを小さくしなければならないからだ。小さくした分、可搬質量が小さくなり、可動範囲も狭くなる。作業と作業の合間に、ベルト式やローラー式のコンベヤーなどの搬送装置を介さなければならなくなる。

 食品を扱う工場では、機器を増やせば増やすほど異物の混入防止や、衛生管理が難しくなる。容器を含め、工場内で使用する機器類はできるだけ少なく、しかも構造がシンプルなものに限るんだ。

 破損して欠けたり、部品の一部が落下したりすれば、異常が確認されるまでに製造したものは、メーカーの責任で全量回収しなければならない。場合によっては新聞やテレビCMを通じての周知を含めると、そのコストは莫大。万が一、客が口に入れて健康被害が出ようものなら、影響はその商品だけでは済まなくなるからね。

 仮に万が一、何か異常を見つけても、異物の混入さえなければ、容器や機器類、生産設備を分解洗浄すればいい。そのためにも、構造はシンプルなものを選び、レンチ1本で全て分解出来て、洗い残しや洗浄後の乾燥漏れがないよう、凹凸の少ない曲面仕上げのものを使うんだ。手間がかかっているし、いろんな気遣いをしているだろう?

 そこで考えたアイデアがこうなんだ。自動化するのは、さまざまな缶に入った果汁や香料、甘味料や酸味料、着色料などの原材料を、統一の蓋付き容器に移し替える工程と、指定した原材料を製造ラインに流し込む工程の2つ。

 原材料の入った缶の蓋を開けると、視覚センサーと吸引ノズルが付いたロボットが、中身を吸い上げる。吸い上げた原材料は、次の工程で製造するジュースに応じて、指定した分量ごとに蓋付き容器に移し替える。

 原材料には液状とパウダー状の物があるが、容器の形や大きさ、蓋の大きさや形をあらかじめ登録しておけば、視覚センサーで原材料を見分け、液状かパウダー状かで吸引ノズルを自動交換するし、途中のホースも自動交換する。容器を持ち上げ、傾ける必要がないから、天井高も気にならない。

 原材料を入れた蓋付き容器は、部屋の奥に置かれる。部屋の左右には、蓋付き容器が並べて置けるよう、棚を設置した。部屋の手前には、ジュースの製造ラインへとつながる原材料の注入口がある。

 ここからが、先週話したひらめきなんだ。部屋の奥と手前の間、左右の棚の間の床面を駆動式にし、床の中央部分にロボットを設置した。床を駆動式にした分、天井高が低くなったけど、それは問題ない。蓋付き容器に入れた原材料は、指定した分量に小分けされており、10kg前後に収まっている。そんなに大きなロボットは要らないし、天井高が低くなっても、無理なく設置できたんだ。

 部屋の奥でロボットが蓋付き容器を持ち上げると、ロボットを設置した床面が前方に移動して、左右の棚に収めていく。

 製造するジュースに応じて、指定した原材料を棚から取り出し、床面ごと部屋の手前にある注入口のところまで進む。注入口のところには重量計が置かれ、指定された原材料が指定通りに分量が収まっているかを確認する。確認出来たら、注入口に注ぎ込む。

 左右の棚から指定された原材料の蓋付き容器を選び、決められた順番で注ぎ込む。注ぎ口は床の近くの低い位置に設けたので、蓋付き容器を傾けて原材料を投入しても、天井にぶつかるようなことはない。

 注ぎ口から入れた原材料は、階下の製造工程へと流れ、ペットボトルへと注入されていく。どう、いいひらめき、アイデアでしょ?

TOP