生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.07.09

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#26]青天井ってわけにはね(中)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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お客さま各位

 長らくお待たせいたしました。「緊急事態措置」が解除され、「まん延防止等重点措置」への移行を受け、6月21日(月)から営業を再開いたしました。
 「まん防……」期間の7月11日(日)までの営業時間は午後8時まで、酒類のラストオーダーは午後7時までといたします。
 よろしくお願いいたします。

                                  Bar王道 店主

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――雨で肩が濡れてますよ。まだ降っていますか?
 さっきまで止んでたんだけど、また降り出したみたい。今年は長梅雨だね。俺って雨男みたいでさ、何かあると降り出すんだよ。誰かと一緒に出掛けた時に晴れると「俺よりも運気が強いんですね。俺、雨男だから」って言っちゃう。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「鶏ナンコツの梅しそ和え」か。梅肉の酸っぱさはうっとうしい梅雨にぴったり。シソも旬だしね。そう言えば昔、俺が小学生の頃に「トリノスビバレッジ」の梅ジュースってあったな。今はもうないんのかなぁ。懐かしいなぁ……………。


 飲料メーカー「トリノスビバレッジ」の新工場が稼働するにあたり、ペットボトル入りジュースの製造過程の自動化を任されることになった。詳しく話を聞くと、どうやらその工場では、映画やテレビドラマに出てくるような250kgのドラム缶は使っていないことが分かった。

 ジュースの原料は主に、果汁や香料、甘味料や酸味料、着色料なんだ。それが四角い一斗缶だったり、ガソリンスタンドや自動車の修理工場などで見かける、エンジンオイルが入っている高さ50cmぐらいの円形のオイル缶だったりと、さまざまな形の缶や袋入りの状態で、原材料各メーカーから納品される。それらをどう組み合わせるか、地中から採取する天然水とどう組み合わせるかがジュースのレシピなんだ。

 で、俺もあれこれ考えた。天井の低い5階建ての無窓工場で、ウチはどの工程を担うべきか?

 それぞれの原料は、20㎏程度の缶や袋物だから、250㎏の可搬質量のロボットこそいらない。でも、20㎏あるとすれば、そこそこのサイズのロボットは必要。だとすると、天井高もそれなりに必要。果汁や香料、甘味料や酸味料、着色料は、ジュースの種類によって、それぞれ20種類以上はある。新工場で製造するジュースは10種類ある。さあ、どうする?

 たいしたアイデアが浮かばないときは……、一服する。喫煙所さ。たしか新工場の敷地の、守衛所の横に喫煙所があったはず。「ちょっとすんません」って断って、工場の5階から1階へ、エレベーターで降りた。と言っても、まだエレベーターが完成していないから、建屋の外壁に固定された、工事資材を運ぶための工事用の仮設エレベーターで。

 「4F」「3F」「2F」……と、そこの階数が外壁に紙で張ってある。工事用のエレベーターはまさしく、床面と天井以外は金網で囲われただけの仮設。資材の運搬用だから、歩いて階段を下りた方が早いぐらい動きはゆっくり。各階を示す張り紙と、下からせり上がる各フロアを目で追ううちに、はっとひらめいた。

 「これなら、やれるかもなぁ……」

 エレベーターが1階に到着するころには、いくつか断片的なアイデアが涌き始めた。ロックを外し、ジャバラ式の手動トビラを開けてエレベーターを降りて、守衛室横の喫煙所まで30mほど。歩くうちにおぼろげなアイデアの断片がイメージされ、何となく形になり始めた。

 喫煙所の先客に黙礼してタバコを取り出して火を付けると、胸ポケットからメモ帳を取り出した。だんだん形になり、頭の中で動き始めたイメージを忘れないように。まずは浮かんだアイデアを箇条書きにして、頭の中で動くイメージを絵にしていく。

 「タテじゃないなこれは。これはヨコだなぁ…」

 手にしたメモ帳を左に右に、そして再度左に90度傾けて横にして、絵を書き加えていった。

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