生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.05.07

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#22]大事なのは教育、人もロボットも

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――今日はノーネクタイなんですね?
 都知事さまが大臣時代に言い出したクールビズが、ウチの会社では今も生きててさ。「今月からノーネクタイにしろ!」って総務がうるさいんだよ。若い奴ならどんな格好しててもさわやかなんだろうけど、おっさんのノーネクタイなんて、単にだらしなく見えるだけだよ、全く。やっぱりいいよねぇ、マスターのボウタイ姿は。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「タイ風焼きナスのサラダ」か。もう本格的に初夏だね。タイと言えば思い出すよ、部品メーカー・湖東精密の案件を。仕組み作りより大事なのは、教育なんだよなぁ……………。


 滋賀県東近江市の湖東精密は、自動車部品の加工に強い部品メーカーだ。2000年代の初めに、取引先の自動車メーカーの誘いに乗ってタイに進出した。大学出のタイ人に日本で研修を積ませ、3年ほど実務を勉強させながら、タイの工業団地に工場を建設。完成後は日本人技術者と、研修を済ませたタイ人を現地に送り込み、新たに現地で採用したタイ人とともに工場を稼働した。

 初めは簡単な部品加工から始めて、稼働から5年も経った頃には、難しい加工も現地でこなせるようになったらしい。まあ、最初の進出計画や段取りが良かったんだろうね。10年もすれば、タイ工場は湖東精密の立派な稼ぎ頭へと成長した。

 初めはそれで良かった。でも、そうこうするうちに同業他社も現地に進出し、国内並みとは言えないまでも、それなりに品質も安定し始めた。ただ、先行者というだけでは湖東精密の受注も怪しくなった。そこで、国内並みの自動化を、タイ工場でも進めることになった。

 国内の工場と同じようにロボットを入れて、加工機へのセットや、加工後の運搬などのいわゆるハンドリングに加え、「せっかくの機会だから」と、新たに溶接やバリ取り、研磨やトリミング、穴開けなどの加工も自動化することにした。

 用途をきちんと伝えていなかったのか相手の担当が新人だったのか分からないけど、ロボットメーカーからは当初「ティーチングなら1日や2日もあればできるでしょう」と言われて、ロボットを発注したらしい。湖東精密の側も加工の自動化は初めてだから、「そんなものか」と。でも、いざティーチングを外注のSIerに頼むと「ロボットに加工をさせるなら2週間はかかる」と言われたらしい。そりゃあそうさ、ハンドリングよりも加工のティーチングの方が断然難しいんだから。

 そこで、付き合いのあった俺のところに泣きの国際電話さ。「何とかならないですか?」と。相手が揉み手しているのを感じるぐらい低頭な口調で。

 申し訳ないけど現実的な結論を告げた。「おそらくそれは2週間でも無理でしょう。倍の4週間、いや実際には5週間はかかるでしょう」と。

 「ロボット導入でこんなに便利に!」と持ち上げられて、それをいちいち否定しないわれわれ業界の人間も良くないんだけど、ロボットを導入する顧客のユーザーも、加工のティーチングを軽く見ているのが原因だろうね。ハンドリングと比べて、加工のティーチングはロボットに姿勢や位置を記憶させる数が多く、求められる動作の精度もコンマ何mmの世界なんだ。その調整作業だけで、あっという間に1週間なんて過ぎていくんだ。

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