生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.04.16

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#19]老舗ののれん(下)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

――― ――― ――― ――― ―――



<前回記事はこちらから>

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――先週もすみません、看板で話の腰を折りまして。
 ん? えーっと、何の話だっけ?

――もう随分飲んで酔っ払ってるんですか? ほら例の、老舗百貨店の話ですよ。
 あー、はいはい。そうね、そうだった。続きが聞きたい?

――2週に渡ってお聞きしましたからね。そりゃあ、続きは気になりますよ。ほら、ジャックソーダも、「老舗ソーセージの盛り合わせ」もご用意しました。
 あ、そう? 何だったっけ。老舗、そうそう「魁(さきがけ)屋」の話だったね。業務を自動化して、どう効率化できるかだったねぇ……………。


 名古屋の老舗百貨店「魁屋」の物流子会社「魁ロジスティクス」の物流センターには、包装紙にくるむ専任者や、のし紙に墨書きする書家がいて、配送する場合は麻ひもを十字にかける流儀があってって話だね。

 業務の効率化を進めるために、俺みたいなSIerのほか、大手運送会社や倉庫会社、物流センター業務を自動化する物流機器メーカーなど、いろんな業種の担当者が呼ばれたんだ。百貨店同士が生き残りをかけた経営統合で設立した、依頼主のホールディング(HD)会社は専門外の物流業務について何も知らないから、手当たり次第に関係業者に声をかけた。各業者に現場を視察させて、それぞれに「提案書」を書かせたんだ。

 大手運送会社は、魁ロジの業務を名古屋市近郊の小牧市にある自社の物流センターに移管して、全ての業務を自社のスタッフでまかなう提案をした。提案書には書いてないけど、要するに魁ロジの業務を引き受け、魁ロジを即廃止するって案だね。他の運送会社や倉庫会社も似たような提案で、同じく春日井や稲沢など近郊の自社拠点で業務を請け負う内容だった。結局はこの案が漏れて、外商部員から大反対にあったんだけど。

 似たような提案がいくつもあった中で、一つ変わった提案をする会社があった。大手重電メーカーの国菱電機の物流子会社「菱機(りょうき)ロジスティクス」の提案だった。

 菱機ロジは1990年代から、値札の取り付けや検品、OA機器の組み立てやカスタマイズなど、物流業務以外も手広く取り込む「3PL(サードパーティーロジスティクス)」に力を入れて、グループ外の仕事も数多く手掛けてきた。親会社・国菱電機の業務は売上高の半分以下にまで抑え、自ら稼ぐ優等生なのさ。情報システムの構築にも強く、3PLで健康食品やネット通販の物流業務も手広くこなしている。

 その提案はというと、商品の保管と、店舗や外商からの売買情報などやり取りは、今まで通り魁ロジに任せる。受注した商品は、まとめて名古屋市郊外の長久手市にある菱機ロジの物流センターに運び込む。センターには、魁ロジで包装紙にくるむ専任者やのし紙に墨書きする書家が待っていて、これまでと同じように作業をする。配送が必要なものは麻ひもを十字にかけて、魁屋の流儀を身に着けた魁ロジの配送スタッフが配送する。外商部員が客先に届けるものは、菱機ロジのセンターから持参する。どう、いい案でしょ? 近江商人の「三方よし」みたいに、全員にメリットがある案なんだ。

 これには理由があるんだ。実は魁屋の外商部が陰で動いていた。一部の関係者しか知らない話だけど、実は北区黒川沿いにある魁ロジのセンターは、老朽化で将来の取り壊しが決まっていた。耐震基準はとっくの昔に満たさなくなって、補強工事じゃらちが明かない。跡地はリニア新幹線の開業に合わせてマンションになる。外商部員は施工業者はもちろん、青写真まで持っている。取り壊しまでに、菱機ロジはセンター業務で実績を積み、折りを見て魁ロジの業務や流儀を完全移管すればいい。

 外商部員の顧客に、国菱電機の取締役名古屋支社長がいた。季節ごとにスーツを仕立てるんで、自宅での2度の仮縫いにテーラーと同行し、それとなく耳に入れてきた。名古屋支社長は国菱電機の上がりポストの1つで、歴代の支社長は子会社の菱機ロジの社長に就任してきた。異動の時期を狙って「就任後の初案件としてどうでしょう?」と、ささやいた。

 別の外商マンは、地元の運送会社の幹部を、顧客に抱えていた。県内の業界動向にも詳しいんで、そこに持ち込んで概略図を書かせたのさ。その運送会社は国菱電機の家電部門の配送を請け負っていて、家電製品の配送で魁屋とも取引があった。喜んで絵を書いたよ。

 この案は魁ロジにも都合が良かった。魁ロジのスタッフは、いずれ菱機ロジに転籍する。菱機ロジは社内に託児所もあって、女性パートも楽しみにしている。子会社の業務の効率化を理由に畳んで従業員を解雇した話が地元で広まったら、老舗百貨店の信用にも傷が付く。無理なく自然消滅させて、折りを見て他社に業務を移管した方がスマートなのさ。

――ところで、SIerのたにがわさんの会社のうまみは?
 おっ! マスター、いいところつくね。ウチは菱機ロジと早くから手を組んでいてね。今は包装専任者の動きや書家の筆遣いを、ロボットに仕込んでいるところ。包装紙にくるむ専任者や書家は高齢化が進み、一番若くて60歳。遅かれ早かれ引退が見えているし、今どきの若い書家は百貨店のバイトなんてしないからね。包装の仕方や書家の筆遣いを分析して、簡単なものからロボットにやらせている。
 書家も「私の筆がロボットで未来に継承される」と喜んで協力してくれている。彼らが引退するころには、あらゆるデータが蓄積されるはずさ。書家の筆遣いの研究は、同業者はどこももやっていないから、ウチもいいデータが取れそうだよ。最近は海外からの問い合わせも多いんだ。

――それにしても、老舗外商マンの情報収集力や人脈の広さには驚かされますね。しかも、長期を見越して収まるところに収めて。外商マンの仕事が、ロボットやAIに置き換わる時代は来るんでしょうかねぇ

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

TOP