生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.04.02

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#19]老舗ののれん(上)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気?いやあ、今週も疲れたわ。

――おや? 今夜はプリント柄のネクタイですか。白いシャツに映えますね。
 そうなんだよ、昨日から新年度だからね。スーツは無理だけど、シャツとネクタイはおろし立て。昨年度はコロナで大変だったから、せいぜい気分だけでも一新、切り替えたくてね。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。え~っと、今夜のおすすめは「老舗ソーセージの盛り合わせ」か。ほほう、しゃれてるねぇ。

――今夜は正真正銘のおすすめ。ドイツの老舗から空輸で取り寄せたんです。先ほどつまんだら、いい味でしたよ。

 ドイツの老舗ねぇ。老舗と言えば思い出すよ。300年続く老舗百貨店の案件を。これこそ、要するにのれんの重みだったよなぁ……………。


 名古屋の繁華街、栄(さかえ)に300年続く老舗百貨店「魁(さきがけ)屋」がある。名古屋には魁屋の他にも、全国に名が知れた高級百貨店の名古屋店がある。しかし、生粋の名古屋人、とりわけ名古屋に本店を置く歴史ある地元企業には、魁屋こそが百貨店であって、その他の老舗百貨店はあくまでも「魁屋以外」でしかない。

 同じ手土産なら中身は同じでも、魁屋の包装紙でくるまれたものこそが最上の手土産。他の百貨店の包装紙でくるまれた土産など、所詮「魁屋以外の物」。「魁屋の包装紙」こそが相手への敬意であって心遣い。中身は二の次。気持ちなのだ。

 名古屋市北区の黒川沿いに、魁屋の子会社「魁ロジスティクス」の物流センターがある。かつては魁屋物流と名乗り、主に魁屋の店頭で受注した商品や贈答品の配送、「外商」と呼ぶ、一部の金持ちやVIP客だけを担当する部門で受注した商品の宅配などを担ってきた。

 その魁ロジから問い合わせがあったのは、5年ほど前のこと。百貨店同士が生き残りをかけた経営統合でホールディング(HD)会社を作り、統合された各百貨店は、HDを形成する1店舗になった。老舗の魁屋も、組織図上では傘下の1店舗。HDから経営の合理化と業務の効率化を迫られ、物流部門がそのやり玉に挙がった。
 
 HDの言い分はこうだ。世には大手から個人経営まで、星の数ほど物流会社がある。「そもそも、魁屋の物流を全て自前の子会社でこなす必要があるのか」と。高給取りの魁屋の給与体系で物流業務を維持すると、どうしても割高になる。保管なら倉庫会社、配送なら宅配業者などの「専業に任せるべきでは?」との言い分だ。

 でもね、代々のれんを守り抜いてきた老舗には「老舗の流儀」ってものがあるんだ。いくら民間の営利企業だからと言って、効率だけでは崩せない、守らなければならない「一線」ってものがある。その一線を守り続けたからこそ、他の百貨店が得られない「絶大な信用」が得られた。だからこそ、外商なんていう特別な部署が、数の上では圧倒的多数の来店客は一切相手にせず、一部の金持ちやVIP客だけを相手に、商売を継続できた。しかも商売は一代限りではなく、親から子ども、そして孫へと、信頼関係は続いていくのさ。

 物流子会社の経営の合理化と業務の効率化に、真っ向から反対したのが、この外商部員たちだった。「老舗百貨店の信用を捨てるのか!」と、HDの方針に反対を唱えだした。百貨店出身のHD社員はともかく、銀行や商社などから派遣された、百貨店の実務を知らない出向組のHD社員は当初、「現場が何を今さら」と、外商部員らの反対を相手にしなかった。

 でもね、間違いだったと気づかされるのは、実務を知らない出向組のHD社員なのさ。外商部員の情報収集力と人脈、影響力は、何も百貨店の商圏だけにとどまらないんだ。

――外商ビジネスはわれわれ庶民には縁遠い話ですが、百貨店って、われわれおじさんの世代には独特な響きがありますね。デパートでは決して伝わらない意味合いやニュアンスが。大食堂とか屋上遊園地って、まだあるんですかね。続きは来週にでも聞かせてください。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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