生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.03.26

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#18]桜花爛漫、新たな道を

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。

■たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――今日は随分遅い時間ですね?
 今夜は送別会でね。ウチの若い衆の1人が「家業を継ぐ」って、3月いっぱいで辞めるんだ。「カラオケ行くぞ!」って盛り上がってたから、抜けてきた。おっさんが長居してたら若い衆らは愚痴も言えないでしょ。おっさんはおっさんなりに、気を使ったんだよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。今夜のおすすめは「スペイン産ハモンセラーノ」か、生ハムだね。でも今日は送別会で食べてきたから、ナッツかオリーブでももらうわ。スペインか、そういえばヤツも旅行で行ったって言ってたなぁ……………。


 ヤツ、矢田部寛隆は9年前の5月に、面接にやってきた。俺が今の会社に移って1年たったころで、初めて採用した部下だった。俺が採用したわけじゃないよ。「少なくとも悪事に手を染める奴じゃなさそう」って部長が決めたんだ。

 大学を出る時が東日本大震災直後の不況で就職先が見つからず、カラオケ店や本屋、サウナの深夜バイトなんかを掛け持ちして生計を立てていた。店のカウンターにあった求人情報誌でウチの求人を見て「そろそろ就職しなきゃなぁ」と応募してきたらしい。

 そもそもSIerがどんな仕事なのか、何も知らないまま応募してきた。そもそも職歴のないフリーターだから「SIerとしての仕事をどう教えるか」どころか、あいさつや電話の取り方、名刺の渡し方など、サラリーマンの所作を一から教えなきゃならなかった。そう、俺が教育係さ。

 しばらくは俺が行く先々に連れて回り、半年後ぐらいから独り立ちさせた。「大丈夫かな?」と思ったけどね。要領がよく飲み込みが早い訳じゃ決してなかったけど、生真面目だから手は抜かなかった。そのうちに客からも、信用だけはされてきた。「少なくとも悪事に手を……」との部長に見立ては、見事に当たってた。

 大きな商談をまとめたとか、驚くような自動化の提案をぶち上げたとか、派手な実績はない、今日までね。でもさ、面倒くさい案件、俺たち手練れなら見向きもしないような地味な案件を、ひとつひとつ手を抜かず、文句も言わずに黙々とやるんだ。

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