生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.03.19

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#17]ロジスティクスへの道のり(下)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
SIer会社の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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<前回記事はこちらから>

――フェイマスグラウスのロックです、水も落としましたよ。
 ありがとう。ふぅ~ん、水をたった数滴足すだけで、随分と香りが引き立つね。

――それと、ナッツとチーズ。今朝ウチのベランダで摘んだパセリも添えました。
 うんうん、よく合うんだよね。香り同士が邪魔しない。

――岡ぴーさん、仙台によく行かれてたんですよね。
 そうそう、なとり通運ロジパークね。通運会社っていうのはJRの前身、国鉄がコンテナや貨車を走らせていた時の名残りでね。元は貨物駅から届け先まで荷物を運ぶ会社なんだけど、暗に「国鉄と取引する選ばれた会社、優良会社」って意味も含んでいて、信用の証でもあったんだ。今じゃ鉄道コンテナを扱うのはごく一部になっても、通運の名前を残す会社も多いんだ。なとり通運ロジパークも、通運会社が作った物流センターだったよ。


 岡ぴーが入社して与えられた最初の物流の案件が、なとり通運ロジパークの案件だった。物流センターの新設を機に、一気に自動化を進める案件だった。本社と倉庫はかつての宮城野駅、今の仙台貨物ターミナル駅近くにあったんだけど、周辺で宅地化が進んで手狭になり、隣の名取市に物流センターを新設したんだ。仙台空港も近いからね。

 目玉は高さ25m、ビルやマンションなら8階建て相当の高さの自動倉庫棟さ。内部には高さ20mを超える自動ラックを構築した。仙台貨物ターミナルから搬入した大量の日用雑貨を保管して、ホームセンターの店舗向けに小口に分け、配送まで担う計画だった。

 日用雑貨以外の、ちょっとした建材やDIY用の電動工具など、ロジパークで保管していない商品も、他社の倉庫からまとめて運び込み、ロジパークで店舗ごとに仕分けて配送する。ホームセンター側も配送業者が1社に絞られることで、荷受け作業や、店頭への陳列作業が効率化できる。ロボットや、当時の最新で外国製しかなかった無人搬送車(AGV)を導入して、将来はホームセンター以外の業界の荷物も広く扱う計画だった。

 「本物のロジスティクス構築」を目指す岡ピーにとっても、東北地方一帯のホームセンターの荷物を扱う仕事にはやりがいもあった。ホームセンター各店舗の需要予測を基にした在庫や受注データ、ピッキングにかかる時間や発送までのデータ、ロジパークの建屋全体のエネルギー効率の管理やアルバイトの人件費を含む労務管理までを、全てデータで管理して、経営に必要な指標にまで情報の質を高められる。

 荷主から指示された通りの業務をこなすだけではなく、集めた情報の質を経営指標にまで高めて情報武装し、荷主と対等なビジネス関係を築く。それこそがまさに、岡ぴーの目指す「本物のロジスティクス」だったんだ。

 別の案件も手掛けながら、建設中のロジパークに通い、週末を使ってあれこれ詳細を詰めていた。そう、あの日もね。

 あの日……、10年前の3月11日は金曜だった。宇都宮の案件を午前中に済ませ、新幹線で仙台へ。在来線に乗り換えてロジパークに着いた。事務所に顔を出し、安全靴にヘルメットをかぶってセンター内の自動倉庫棟に向かった。ドアを開けて建屋に入るところまでは、守衛室の防犯カメラに写っていた。

 午後2時46分――。宮城県の東南東沖130kmを震源とする地震が発生した。マグニチュード9.0と、日本の観測史上最大の地震が東日本を襲った。

 岡ぴーは、今も行方不明なんだ。自動倉庫棟は地震で外壁の一部が崩れ、その後津波に襲われて中の自動倉庫も崩れ落ちていた。あの後、少ない情報の中でいろいろ探し回ったけど、どこにも名前が見つからなくてね。どこかで生きていると信じたいけど、10年はねぇ……。テレビでも連日、特別番組が流されたけど、見るたびに無意識に身構えちゃうよ。

 今年でひと区切りつけたかったんだけど、そう簡単には心を整理できないよ。今も仕事で物流の案件があると、先にあれこれ考えちゃうんだ。岡ぴーの事もね……。

――10年ひと昔と言いますが、人によってはたった10年です。長く生きてれば、何年たっても忘れられない物、忘れられない人、忘れられない事は、ひとつやふたつ、ありますよ。忘れないであげてください。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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