生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.03.12

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#17]ロジスティクスへの道のり(上)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
SIer会社の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話? アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――今週はずっと展示会に出展されてたんですよね?
 月曜からずっと「国際物流総合展」でセントレア通いだよ。コロナ禍にも関わらず、来場者数もそれなりにいてね。メドもついたんで、ウチの若い衆らに後を任せてきた。昨日は東日本大震災から10年だからね。一日遅れでヤツに献杯したかったんだ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 いや、今日はフェイマスグラウスにしてくれ。ロックに気持ち水を垂らして。アテはナッツとチーズでいい。チェイサーもね。ヤツはいつもそれだった。物流に魅せられ「物流をロジスティクスに変える」と体を張った漢(おとこ)だったよ。

 10年前に今のSIerに転職した時に、入社が1カ月違いの、同期みたいなヤツが一人いた。それが岡田義一で、歳はオレとひとつしか違わない。機械商社でキャリアを積んだオレに対し、ヤツ、岡ぴーは中堅の運送会社で多くの物流案件の実務をこなしてきた。

 大阪・船場の営業所に配属された若い頃は、何でもこなしたらしい。経営学科を出た大卒だったが、早朝からトラックで繊維街への配達をし、途中で銀行と郵便局で記帳して顧客からの入金を管理し、午後は伝票を整理して夕方からトラックで集荷。夜は路線トラックへの積み込みを手伝い、最終便を見送ると伝票から請求書起こしと、夜中まで仕事をこなした。ドライバーが事故を起こせば、営業所長が警察への対応に追われる中で、岡ぴーは竹ボウキを持って事故現場で割れたガラスの破片を掃除した。

 バブル崩壊から3、4年って時で、固定の残業代や手当ては毎年削られていく。軍手や安全靴、作業服の替えまで全額自己負担に変わり、ただでさえ給与水準が低い運送業界で、税金や年金、組合費を引かれて手元に残るのは月に10万円。盆と暮れの贈答期には荷主の商品の自腹購入も。営業所の3階以上が寮で、寮費がタダみたいな額だから続けられたんだ。

 30歳過ぎで同期の中で一番で主任に昇格して、枚方の物流センターに異動した。「物流をロジスティクスに変える」が岡ぴーの信念。センターのノウハウを手にして、物流そのものを高度化できれば、信念だったロジスティクスに変えられると思っていた。

 日本では英語のロジスティクスを物流と訳すけれど、実際は少し意味が違う。輸送や保管、包装や流通加工、荷役などの実務や、これらをシステム化するだけでなく「経営管理や、物流全体の最適化までこなして初めてロジスティクスなんだ」と、岡ぴーはよく言っていた。

 当時の物流業界では、せいぜい複数の荷主の荷物を1つに詰め合わせて梱包したり、最も進んだ会社でも、ユニットや電子部品を組み立て、顧客仕様のパソコンとして出荷するぐらいで「ロジスティクスの新業態」と胸を張れた。岡ぴーにはそれが満足できなかった。「ロジスティクスにはもっと明るい未来がある」と。

 相模原や幕張の物流センターでの勤務や、成田では航空貨物のキャリアも積んで成果も上げたが、ロジスティクスとは程遠かった。荷主に最適な物流を提案できても、経営管理の指標を進言できるほど、業務も権限も及ばなかった。「荷主は神で隷属する物流会社」の図式は何年たっても変わらず、パートナーとしての対等な関係には程遠かった。

 40歳を前に遅い結婚を迎えたところで、思い切って異業種のSIerの世界に飛び込んだ。物流の世界をロボットで自動化し、人工知能(AI)を組み合わせれば、より深く経営に関わりロジスティクスに進化できると考えたからだ。

 そこで、最初の仕事として仙台の倉庫会社での自動化の案件を請け負うことになった。仙台市の南隣、名取市のかつての陸羽街道、国道4号沿いにある「なとり通運ロジパーク」だった。

――高速道路沿いに巨大な物流センターが増えましたもんね。最近は、聞き慣れない外国企業のロゴも目に付きます。遅くなったので、一見の客が迷い込まないよう看板の明かりを落としてきます。片づけ始めますが、遠慮なく献杯を続けて下さい。


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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