生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.02.05

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#12]自前主義のお点前(下)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話。アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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<前回記事はこちらから>

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――何かいい事でも? いつもと表情が違いますね。
 このところずっと在宅のテレワークだったんだけど、急に昔の資料が必要になったんで久々に出社してね。同僚や部下たちと直接話したら気分が良くてね。テレワークなんて、ぶっちゃけほとんど仕事なんてしてないんだけどね。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。例の話の続きでしょ? カサイ匠(たくみ)テックの……………。

 渡辺会長のプランはいたってシンプルなんだ。要するに工作機械の間をローラー式のコンベヤーでつなぎ、機械の前にロボットを据え付けるっていうもの。正面にロボットやコンベヤーを鎮座させちゃ、普段の段取り替え作業やメンテナンスには不便だから、一部はつり下げ式のロボットに変えて空間を空け、コンベヤーも一部を跳ね上げ式にした事ぐらい。

 コンベヤーに通い箱に入れたワーク(被加工材)を流して、加工する機械の前で自動で止まるようにした。通い箱の横にバーコードを印刷したカードを引っかけられるようにして、ワークの情報とひも付けられれば、全量の工程管理も可能になる。いつ、どこで、どんな加工や検査をしたのか。もしワークに不備があっても、簡単に履歴をたどることもできる。

 たったそれだけと言っちゃなんだけど、この程度の投資で機械の稼働率は格段に上がるし、年々年を取っていく熟練職人の作業性も、格段に上がるんだ。働く意欲は高いのに、力作業が年々辛くなるっていうのが、口には出さないけど彼らの本音だからね。

 それぐらいのプログラムならそんなに難しくないから、独学で技術を身に着けただけの渡辺会長や勝成社長でもお手のものだった。「谷やん、どう思う?」と聞かれたから「シンプルだけど。よく考えられた仕組みだと思う」って答えたんだ。

 俺からその時に助言できたことと言えば、せいぜい加工機と加工機の間や、加工後の検査工程の後に、自動ラインに支線を作り、不良があった通い箱を支線に流して取り除くようにすることぐらい。あとは将来を見越した話で、マシニングセンタや旋盤、複合加工機の中には、加工室の中にロボットを設置したものも出始めたから「次の更新期に検討したら」との提案ぐらいかな。

 ロボットの先に付けるロボットハンドも自作するつもりだったようだけど、それはやめた方がいいよと。モチはモチ屋で、専門家に任せた方が無難。力の具合や動作の細かな調整なんかが結構大変で、それを自社で始めると収拾がつかない、つまり稼働時期が大幅に遅れるかもしれないよと。最初は専門家に任せて、次回はそれを参考に改良品を自作すればいいと言ったぐらいかな。
 
 それで、肝心のもうけは出たのかって? 茶飲み話程度だから初めは「いらない」って断ったんだ。久々に会長の元気な姿も見られたしさ。でも会長が「50過ぎのオトコを呼びつけてタダって訳にはいくまい」って譲らず、ロボットだけはウチを通すって話になりそうだった。だけど別に会長に呼びつけられたわけじゃないし、相談と称して頼んできたのはロボットメーカーの方だから「筋が違う」と再度断ったんだ。「相談されたロボットメーカーとウチが次回取引する際に、メーカーに好条件にしてもらうのが相談料の代わり。だから、会長からはいらない」と言ったら、会長も最終的には了承したよ。

 次の設備更新期には、画像認識のためのカメラに人工知能(AI)を組み合わせたワークの外観検査や、作業環境の改善でも提案して、自動化対応の幅を広げる手伝いでもしようと思っているよ。

――その会長もたにがわさんも、それぞれの立場で相手を立てた見事なお点前でしたね。いい商売とは、そうした関係性の積み重ねかもしれませんねぇ。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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