生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.01.29

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#12]自前主義のお点前(中)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話。アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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<前回記事はこちらから>

――いらっしゃいませ。
マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――先週は話の腰を折ってすみませんでした。客商売なんで、他人の目を意識しないわけにもいかず……。 今夜も完全防備ですね?
 大寒を過ぎた今が、一年で一番寒い時期だからね。昔はこの時期に、わざとコートなしで手ごわい客先に顔を出したもんさ。努力や必死さをアピールするためにね。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。先週は結局お出しできなかった「白カビのドライサラミと生ハムのお任せ盛り」もご用意しましたよ。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。何の話だったっけな? そうそう、葛西鉄工所、いやカサイ匠(たくみ)テックの話だったなぁ……………。

 80歳を過ぎて代表権を長男の勝成社長に渡してからも、渡辺会長の研究熱は冷めてなかった。むしろ、経営なんていう下世話なものから解放されて、社長時代よりも熱は上がったのかもしれない。もっとも、社長時代も経営は、経理担当だった奥さんに任せっきりだったから、創業期の気持ちに戻ったのかもなぁ。

 会長室でお茶飲みながら聞いたのは、遅れていた自動化を自社で進めたいってこと。カサイ匠テックは昔から、工作機械や自動車向けの精密な歯車を作ってきた。鏡面仕上げだって、仕上げが並みじゃない。顔が映るどころか、シワひとつまでくっきり見える。髪の枝毛だって裂け目がくっきり、現物よりもきれいに映るんだ。

 受注した精密歯車を、加工に時間がかかるものからランク分けして、加工は夜間に回そうって計画だった。従業員の就業時間は人手がかかる作業に集中する。歯車加工の専用機やマシニングセンタ、複合加工機など段取り(加工の準備)や、切削工具や砥石(といし)の取り替えやメンテナンス、加工した歯車の測定や検査に集中する。終業時間外は自動でひたすら加工する。

 そもそも、設備はどれも最新のハイエンドマシンで整備もバッチリ。設置の基礎工事だって、メーカーの推奨する数値を参考に調整しながら自前でやる。江戸川区葛西は埋立地だから地盤が良くない。渡辺会長は昔から、それを見越して完璧に整えてきたのさ。

 自動化にあたってロボットを設置するんだけど、地盤や作業性、将来の拡張性なども考えると、SIer任せにはしたくないと考えたみたいなんだ。大量生産品もあれば、多品種少量品もある。渡辺会長の経験則を反映させ、拡張性を持たせなければ、構築したシステムはすぐに使い物にならなくなる。だから自前にこだわったのさ。

 精密歯車は、加工機を扱うオペレーターの職人技に頼る部分もあるが、加工機の性能任せの部分もある。ロボットを導入する自動化を機に、オペレーターにはより職人としての専門性を高めてもらい、運搬や移動などの力作業や雑用から解放したい。そして将来は、ロボット要員としての専門性も高められるようにしようっていうのが目的なんだ。

 これから若者の就業者数が少なくなれば、社員のオペレーターには気分よく、長く勤めてもらいたい。そのためには、できるだけ本業だけに特化して、わずらわしい雑用や力仕事から解放してやりたい、ロボットの時代が来ても対応できる力を付けさせてやりたいって熱く語られると、聞いてる俺まで目頭が熱くなったよ。

 その後に久しぶりに工場を見せてもらった。建屋こそ古いが、工場内は別世界だったよ。床も壁もピッカピカ。加工機はどれも新品のよう。手入れが行き届いてるから、加工機に異常があればすぐに分かる。最後まで残る雑用は、担当する加工機を磨き上げることだろうね。もっともオペレーター自身は愛機だから、それを雑用だなんて思っていないんだ。

 渡辺会長のプランはこうなんだ。先週少し話した「葛西鉄工所」の文字が残る通い箱。工場と取引先との間でやり取りする、大きさを統一したプラスチック製の箱。これを使って自動化しようって言うんだよ。単純明快だけど、シンプルでいいプランだと思った。

――たにがわさん。早くその先が知りたいんですが、そろそろ看板にします。続きはまた来週にでも。

=つづく


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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