生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2021.01.08

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#10]つまむからつまみ

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話。アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――ああ、いらっしゃいませ。
マスター元気?……そうじゃないね。あけおめ! いやあ、年明け早々今週も疲れたわ。

――しーっ! 声を落としてください。コロナ禍の短縮営業で本来ならもう閉店しています。
 ええっ! もう閉店? 看板の明かりが消えてたからつけ忘れかと思ったよ。

――玄関と看板の明かりは9時ぴったりに落としました。マスク警察ならぬ”時短警察”もいるんで。常連さんだけは無理に帰さず、遅くに来るたにがわさんみたいな客は内緒で入れてるんです。バーが夜の9時に閉店じゃあ、誰も来ちゃくれませんよ。
 そうだよなぁ。ウチの会社も大変なんだよ、売り上げは減ったまま。首都圏はまた非常事態だって騒がしいし。年末年始のあいさつ回りだってパソコンの画面越し。これじゃあ、回るに回れない。商いの話だって始められないよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。え~っと、今夜のおすすめはって、メニューの字も消えてるじゃん。ナッツとチーズでもつまむよ。つまむと言えば思い出すよ。電機メーカーの電磁開閉器(スイッチ)の案件を。要するにあれはつまみだったなぁ……………。

 「近畿の水がめ」と呼ばれる琵琶湖の西側。滋賀県草津市の旧東海道と中山道が近づく辺りに、滋賀電機の湖南製作所はある。総合電機メーカー・滋賀電機の全国にある工場の中で、湖南製作所は表示器やインバーター、電磁スイッチや変圧器などを製造する。相談された案件は、電磁スイッチの組み立てラインで使うロボットハンドについてだった。

 ハンドはロボットの先に取り付ける「エンドエフェクター」と呼ばれる機器の一種で、重要部品なんだ。ロボットがいくら正確に動いても、物を正確につかみ、決められた場所、位置に正しく置かなければ意味がない。ロボットは汎用品でも、ハンドはオーダーメードの特注品って事も少なくない。一点物だから当然、値も張る。

 総合電機メーカーだけあって、滋賀電機には頭のいい生産技術者(生技者)がごろごろいる。ロボットのシステム構築なんて自社で何度もこなしているからお手のもの。ただし、ハンドの製作だけはうまくいかなかった。

 作れなかったんじゃないよ。上場企業で高給取りの社員が内製するとえらく高くつき、しまいにはロボット本体の値段を超えそうになって、慌てて俺に声が掛かったんだ。
 
 ハンドでネックになったのは部品のつまみ方、いやつまみ具合と言ったらいいのかな。当時市販されていた汎用のハンドでは、電磁スイッチの組み立ての途中で、部品を握りつぶしてしまうことや、部品をスイッチ本体にうまく差し込めないことがあった。

 部品の2つの樹脂製のツメを、スイッチ本体にパチンとうまくはめられなかった。ツメをうまく差せず、乱暴に差し込んで折ったり、折ったまま部品をねじ込んでスイッチ本体を壊したり。要するに、力の加減がうまくいかなかったんだ。

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