生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2020.12.25

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#9]極上のホウレンソウ(下)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話。アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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<前回記事はこちらから>

――で、どうなったんですかその案件は。いつもと同じで、大成功でシャンシャンってハズはないですよね?
 まあまあマスター、そう焦らずに。ほうれん草とベーコンのサラダおいしかったわ。ドリンクの代わりも頂戴。

――同じものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。マスターも、良かったら何か一杯飲んでよ……………。

 26歳青年の伊藤君と、パートの洋子さんからの報告や連絡を受ける内に、自動化に向けて困り事を聞く「ヒアリング」の材料はだいたいそろった。立体式の自動倉庫を入れたり、無人搬送車(AGV)を走らせてピッキングも自動化、なんていう自動化の「常道」は、北尾張倉庫のケースでは向かないと判断した。

 常道を選べば、見栄えはいいし、SIerとしての実績は増えるし、何よりうちの会社はもうかる。SIerの俺としてはいい事づくし。でも前回の東京五輪の前後に建て替えたきりで、築50年を超える老朽化した倉庫では厳しい。隣り合う県の境に位置し、市街化区域への指定から漏れた田畑に囲まれた場所で敷地内に凹凸があるほどで、床の対荷重量だってあやしい。

 基礎設計が古く、老朽化した倉庫に合った自動倉庫なんてあるかどうか。AGVだって高精度だから、床面の平衡すら怪しい場所で、正常に動いてくれるかどうか。倉庫自体を建て直すなんて言ったら、労務管理の担当者じゃ上司すら説得できまい。自動化の提案は、極めてシンプルなものにした。

 あらためて一年分の作業日報を取り寄せた。すると7~8月と12月から翌年3月までが抜けている。聞けばその期間は、贈答品用に飲料などを詰め合わせる作業がないとのこと。
 中元と歳暮を贈る時期は東日本と西日本で地域差があるという。中元は東日本なら7月上旬から15日ぐらい、西日本は7月中旬から翌8月のお盆の時期まで贈るらしい。歳暮は東日本が11月下旬から12月20日前後まで、対する西日本は12月の13日から20日前後ぐらいまでに贈るのが習慣だ。

 販売するデパートの窓口では、その1カ月前ぐらいまで申し込みを受け付ける。そのため、飲料などを詰め合わせる北尾張倉庫での作業は、7~8月と12月~翌年3月の期間はない。

 これは子育て中の女性パートにも都合がいい。子どもの夏休みや冬休み、春休み中は、家にいる子どもの面倒もみなければならないから。子育ての手が離れたら、休業中はパート仲間らと温泉旅行などにも行ける。

 だから自動化は、いたってシンプルなものにした。パレット(荷役台)に積まれた飲料入りの段ボールの箱を、ベルトコンベヤーにつながった作業台の上に載せるため、作業場の入り口にロボットを1台。パートがギフトボックスに箱詰めし、ベルトコンベヤーで流した先にも1台の、計2台にした。

 ロボットが段ボール入りの缶飲料を作業台に降ろすと人が開封して、作業台と高さをそろえたベルトコンベヤーに向けて滑らす。パレットに積まれた段ボール入りの缶飲料を人手で降ろす必要はないし、缶飲料をベルトコンベヤーの高さまで持ち上げて流す必要もない。力仕事をする男手はいらなくなる。午前と午後の休憩時にパートの作業を交代し、ローテーションで回せばいい。

 ギフトボックスへの箱詰め作業は今まで通り。ただし、女性の体格に合わせ、ベルトコンベヤーの高さを調整。缶飲料を持ったまま腕を上下させないで済むよう、楽に作業できるようにした。ギフトボックスに箱詰めしたものを、ロボットが再びパレットに積み上げる。

 ピッキング作業に協働ロボットを入れることも考えた。パートが嫌がらないよう、顔の位置にタブレット端末を付け、画面に表情でも映そうとも考えたが、今回は見送った。作業中のおしゃべりこそが、パートにとって憂さ晴らし、何よりの潤滑油だからだ。

 繁忙期が終われば、ロボットとベルトコンベヤーは倉庫へ。倉庫会社なので、保管場所ならある。繁忙期の前後に、ロボットやシステムのメンテナンスもできる。簡単なメンテナンスなら、伊藤君でもやれる。海外で二国間、三国間物流を担当する時にも、ロボットの知識や扱った経験は必ず重宝される。

 システム全体を簡略にしたせいか、労務管理の担当者もすぐに理解でき、上司や役員会でのプレゼンテーションもこなせたらしい。今じゃ社内でいっぱしの「ロボット通」として通っているらしい。別の倉庫に転勤して、労務管理しながら「今度は協働ロボットを入れたい」って張り切ってるよ。

 伊藤君は今、ハノイにいるよ。通関士の資格を取って別の倉庫会社に転職し、念願かなって衣料品の二国間物流をやってる。「次はどうやらカンボジア勤務か」ってメールが来てた。

 洋子さんはって? 今も同じ倉庫にいるよ。孫ほど年が違うベトナム人の実習生と仕事をしてる。「女性活躍社会」とかで正社員として働く女性が増えて、パートも成り手がいないんだってさ。

――ホウ(報告)レン(連絡)ソウ(相談)って大事なんですね。中身はもちろん、それを受けとる方の感性も。ウチのほうれん草だって新鮮なものを選んで、下味や隠し味だってしっかり付けてるんですよ。

=おわり


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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