生産現場のロボット化と自動化を支援するウェブマガジン

2020.12.11

連載

[お嫌いですか、ロボットは?#9]極上のホウレンソウ(上)

きらびやかに輝く都会の片隅にたたずむ1軒の老舗バー「王道」。
システムインテグレーター(SIer、エスアイアー)の次長・たにがわじろう行きつけのバーで、酒を酌みながらふと思い出す昔ばなし。酔った勢いで、他では語られない業界の裏話はまさに実話。アブナイ話も所詮は酔っ払いの戯れ言。悪しからず。


たにがわじろう……SIerの次長。機械商社で産業用ロボットを導入した自動化の経験を買われ、10年前に新設されたSIerにヘッドハントされる。入社以来ずっと次長のまま。52歳のバツイチ。

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――いらっしゃいませ。
マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――おや? そろそろダウンコートのシーズンですか?
 そうなんだよ。昼はともかく、朝晩は寒くてたまらんわ。通勤電車も、最近はコロナ対策で窓を開け放ってるからさ。リモート勤務が増えてまだまだ乗客も少ないし。俺は汗かきだから、電車に乗り込む前にコートを脱いでたけど、今年は車内でもコートを着たままだよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。え~っと、今夜のおすすめは「ほうれん草とベーコンのサラダ」か。ニンニク入ってるやつかな? 疲れてるからそれにする。ホウレンソウと言えば思い出すよ。飲料メーカーの案件を。要するにあれはホウレンソウだったなぁ……………。

 愛知と岐阜の県境近くの町に、繊維会社系列の倉庫会社「北尾張倉庫」があった。戦後の繊維不況を生き抜き、その後のオイルショックやバブル崩壊にも負けずたくましく生き抜いてきたものの、生産拠点の海外移転には太刀打ちできず、繊維以外の製品の保管に活路を見いだし、倉庫業を続けていた。

 その一つが、近くに工場がある飲料メーカーの商品だった。飲食店向けに需要が多いビン入り飲料は、ビールのようにプラスチックのケースで積み上げられるし、缶入り飲料は段ボールケースでパレット(荷役台)に積み上げられるため、反物(たんもの)と呼ぶ加工前の布を円筒状にまとめた本来の保管品との相性がいい。においが移ったり、発火の恐れがないため、せいぜいビン類の扱いだけ注意すればいい。

 北尾張倉庫はさらに商機を広げた。中元や歳暮などの贈答品用に、保管する飲料を中心にさまざまな商品を箱詰めする詰め合わせ業務を続けてきた。倉庫業界の人は「加工物流」と呼ぶらしい。飲料メーカーからあらかじめ、金額に応じた「松」「竹」「梅」の詰め合わせセットが指定されていた。「○×デパート向けに松は2000個、竹が5000個、梅が8000個」と注文が入る。北尾張倉庫は、繁忙期を前にパートやアルバイト、外国人の実習生などを100人単位でそろえておき、朝8時から夕方5時まで、人海戦術でこなしていった。

 ところが、ビンや缶の製品は、想像以上に重い。ペットボトルの水だって500ml1本で500g、2本なら1kgある。ビンや缶なら容器の分の重さも加わる。少子化でただでさえ若者が少なく、学生アルバイトは集まらない。外国人の実習生も、日本語が上達すれば、重労働を嫌ってコンビニなどに流れてしまう。北尾張倉庫の人事担当者はここ数年、人集めに頭を悩ましてきたが、いよいよどうにもならなくなった。そこで、飲料メーカーのツテで、かつて製缶メーカーでロボットを使った自動化を立ち上げた俺が呼ばれたワケ。

 まずは現場に行って、担当者に話を聞いた。ただその担当者の仕事は人事や労務管理がメインで、現場での実際の作業の話がどうも要領を得ない。「指示された通り『松』『竹』『梅』のセットを、指示された個数をこなす」としか分からない。担当者にとっての最大の困りごとは「人が集まらず業務がこなせない」であって、どこをどう改善したいか、作業の実務はどこが大変で困っているかが分からない。そこで、現場歴が20年を超えるベテラン女性パ―トの洋子さんに話を聞いた。

 倉庫の棚からフォークリフトで降ろされた、パレットに積まれた段ボール入りの缶飲料を作業台に降ろし、開封してベルトコンベヤーに流す。「松」「竹」「梅」で、飲料の種類や組み合わせが違うから、コンベヤーにはいろんな飲料が流れて来る。それをパートがギフトボックスに、指定された飲料を、指定された数だけピックアップして詰め合わせる。蓋をしてそれをまたパレットに積み上げ、フォークリフトでトラックヤードに運ぶ。女性のパートはピッキング、前後の重労働は男性のアルバイトと担当作業を分けていた。

 だいたいの作業工程は理解できた。それで担当者に「どの作業を、どこまで自動化しますか?」と聞いたんだ。担当者が想定する予算を含めて。案の定、担当者は予算などさっぱり分からない。俺も頭を抱えたよ。誰に何を、どう説明したらいいのか分からないんだから。

――た、たにがわさん。ちょっと待ってください。先週からコロナ禍で営業時間の短縮要請が出てるので、午後9時までしか営業できないんです。続きはこんど、来週にでも聞かせて下さい。

=つづく


■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。

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